時枝秋への以前の熱烈な愛を思い出し、小林凌は彼女に話しかけたい衝動に駆られた。
しかし晋山仁はすでに遠くへ行ってしまい、小林凌はその衝動を抑えて後を追うしかなかった。
外の冷たい風に当たると、小林凌は我に返った。なぜ自分は時枝秋のことを気にかけているのだろう?
必要ない、本当に必要ない。
時枝雪穂こそが最も優しく、自分のキャリアにとって最も助けになる人なのだ。
彼の思考は巡り、尾張靖浩のどこか見覚えのある顔を思い出した。
突然、彼は気づいた。尾張靖浩?
足を失った?
車椅子に座っている?
あれは前回時枝秋と一緒に時枝家に来た時の、時枝秋の実の父親ではないか?
その時の尾張靖浩は、全体的に悲惨な印象を与えていたので、小林凌は少し見覚えがあると感じても、すぐにその感覚を払拭してしまった。