その声は極めて低く、時枝秋にしか聞こえなかった。
時枝秋は普段机の中に本を置かず、試験用紙もカバンの中に入れていた。
彼女はその言葉を聞いて、机の中に手を伸ばすと、何かを取り出した。案の定、定戸市大学の封印がついた小さな書類入れで、中から一枚の紙を取り出すと、そこには定戸市大学の面接テーマが書かれていた。
季山梨香は小さく「あ」と声を上げ、六田学長は低い声で言った。「では、私たちと一緒に来てもらう必要がある」
「はい」時枝秋は立ち上がり、カバンを持って六田学長の後に続いた。
季山梨香は心配で繊細な眉目が寄せられていた。彼女は時枝秋がこんなことをするはずがないと固く信じていた。
でも、誰がやったのだろう?
時枝秋は彼女の後ろについて歩きながら、他の人よりも冷静に考えていた。
他の人にはこの関係を推測するのは難しいかもしれないが、彼女には一目で分かった。
小林佳澄と時枝雪穂の間のことじゃないか。
季山梨香は振り返って時枝秋に言った。「怖がらないで。この件は、すでに内密に処理しています。誰がやったにせよ、表ざたになれば第二中学校の名誉を傷つけることになります。水野学長も、公にすべきではないと言っています」
「はい」時枝秋は頷いたが、内密にするのは、季山梨香が時枝秋のことを思ってのことだと分かっていた。
しかし六田学長と水野学長は、それぞれの学校の名誉のためだろう。
六田学長はともかく、水野学長の方では試験問題が漏洩したのだから、これは大変な罪だ。
もちろん、このような思惑も無理はない。
時枝秋がそう考えながら歩いていると、事務室に着いた。顔を上げると、小林佳澄の姿が目に入った。
ああ、時枝秋は密かに思った。小林佳澄も表ざたにしたくないのだろう。
結局、この件が大きくなれば、彼女も逃げられないのだから。
でも納得できず、だからこうしたのだ。ただし隠密に行動し、小規模で解決しようとしている。
水野学長は時枝秋に初めて会った。芸能人に興味がなく、バラエティ番組も見ないので、彼女の活動も知らなかった。
こうして見ると、堀口景介とよく似ているが、堀口景介よりも白く、透明感があり、見るからに聡明な子供だと分かる。
この件がどうであれ、水野学長の心の中では、すでに時枝秋に味方していた。