尾張お爺さんの声が聞こえてきた。「秋かい?」
「はい」時枝秋は小声で答えた。電波と時空を超えて、尾張お爺さんの申し訳なさそうな年老いた声が聞こえてきた。
彼女の心は、すぐに柔らかくなった。
誰に対しても心を開かないと思っていた自分だが、実は大切な人の前では、いつも心が柔らかくなってしまうのだ。
「秋、私だよ、お爺さんだ。元気にしているかい?」尾張お爺さんの声は少し詰まっていた。明らかに秋が自分を相手にしてくれるか心配していた。
あの時、秋を迎えに行こうとした時、尾張靖浩が事故で意識不明になり、尾張お爺さんも心配で持病が再発しそうになり、秋を迎えるタイミングを逃してしまった。
今でもそのことを思い出すと、老人は後悔でたまらなかった。
時枝秋は優しく言った。「元気です。お爺さんは?」