彼女は飛行機を降りると、プロの選手たちが専用車で送迎されているのを見て、羨ましさが込み上げてきた。
彼女は3位との差がほんのわずかだっただけに、本来なら自分もこのような待遇を受けられたはずだった。
今は、タクシーでホテルに向かうしかない。
浜家秀実は彼女の落胆を見抜き、小声で慰めた。「大丈夫よ、5年後にまたショパンピアノコンクールに参加できるわ」
5年後?
それはずいぶん先のことだ。
時枝雪穂は無理に笑顔を作ったが、その時、時枝秋の姿が目に入った。背の高い男性に護衛されながら、一台の車に向かっていた。
時枝秋も来ていたの?
まさかコンクールに参加するために?
考えてみて、時枝雪穂はすぐにその考えを打ち消した。
時枝秋がコンクールに参加するなんて、まさか彼女のポップスを弾くつもり?
時枝秋が乗った車が大会組織委員会の送迎車ではないのを見て、時枝雪穂はさらに確信した。
ただ、時枝秋が乗り込んだのが珍しい高級車だったことに、時枝雪穂は少し妬ましさを感じた。彼女は一体何のためにワルシャワに来たのだろう?
「雪穂、乗りましょう」横澤蕾は考え事をしている時枝雪穂に声をかけた。
時枝雪穂はタクシーに乗り込み、横澤蕾が予約したホテルへと向かった。
藤原修のワルシャワの別荘は、フィルハーモニーホールから程近い場所にあった。
フィルハーモニーホールは今回のコンクールの会場だ。
彼の別荘の立地は、並外れて良かった。
車が別荘の前に停まると、別荘内が既に新しく整えられているのを見て、木村裕貴のような細部まで気を配る人物でさえ、藤原修の行き届いた仕事ぶりに感心せざるを得なかった。
別荘はそれほど大きくはなく、3階建てで、既に使用人が荷物を運びに来ていた。
藤原修と時枝秋は3階に、木村裕貴と陸田は2階のゲストルームに宿泊することになった。
ここの環境と状況は、選手たちが宿泊しているホテルよりもずっと良かった。
落ち着いた後、昼食の時間となった。
藤原修は時枝秋と共に食卓へ向かい、陸田と木村裕貴は後から来た。
木村裕貴はまだ携帯電話を手に、航空券の情報を確認していた。
「そんなに早く帰るのか?」藤原修が尋ねた。