彼女は飛行機を降りると、プロの選手たちが専用車で送迎されているのを見て、羨ましさが込み上げてきた。
彼女は3位との差がほんのわずかだっただけに、本来なら自分もこのような待遇を受けられたはずだった。
今は、タクシーでホテルに向かうしかない。
浜家秀実は彼女の落胆を見抜き、小声で慰めた。「大丈夫よ、5年後にまたショパンピアノコンクールに参加できるわ」
5年後?
それはずいぶん先のことだ。
時枝雪穂は無理に笑顔を作ったが、その時、時枝秋の姿が目に入った。背の高い男性に護衛されながら、一台の車に向かっていた。
時枝秋も来ていたの?
まさかコンクールに参加するために?
考えてみて、時枝雪穂はすぐにその考えを打ち消した。
時枝秋がコンクールに参加するなんて、まさか彼女のポップスを弾くつもり?