「楽になった。呼吸が楽になった」唐沢家の当主の声に力が戻ってきた。
万田先生は納得がいかない様子だった。瀬尾先生の薬も同じような効果があったではないか?
しかし、どれだけ持続したのか?すぐにばれてしまったではないか?
結局、重要な時は自分を頼りにするしかないのだ。
彼は黙って夫婦の後に続き、車に乗って病院に戻った。
院長は慎重を期して、自ら見舞いに来た後、帰り際に万田先生を呼び止めた。「この二日間は大変だが、病院に泊まって様子を見ていてください。絶対に唐沢さんに何か起こってはいけません」
「分かりました」万田先生は仕方なく承諾した。
どうせ唐沢夫人が無茶をするたびに、後始末をするのは自分なのだから。
万田先生は唐沢家の当主の容態が安定している今のうちに、診察室に戻って休息を取ることにした。これから起こりうる緊急事態に備えるためだ。
彼は助手の看護師に指示を出した。「唐沢夫人の方で何かあったら、すぐに起こしてください」
「万田先生、昨夜は一睡もされていないでしょう。どうぞお休みください。何かあれば必ずお呼びします」
万田先生は二時間ほど眠れると見込んで、急いで休息を取ることにした。
目が覚めた時には、太陽は西に傾き、辺りは暗くなりかけていた。
彼は飛び起きると、食事を運んでいた看護師を捕まえた。「起こすように言ったでしょう?唐沢夫人の方はどうなっていますか?なぜ起こしてくれなかったんですか?」
「万田先生、唐沢夫人の方には黒米のお粥を届けただけで、特に変わったことはありませんでした」
万田先生は信じられず、すぐにその方へ駆けつけた。
行ってみると、唐沢夫人は唐沢家の当主とバラエティ番組を見ながら、楽しそうに笑っていた。何も問題は起きていなかった。
「あら、万田先生。ちょうどよかったわ」唐沢夫人は笑顔で言った。「主人は赤司先生の薬を飲んでから、今まで一度も息切れしていないの。食事の制限は必要かしら?と聞きたかったところなの」
万田先生は凍り付いた。
時枝秋の方では、すぐに唐沢夫人からビデオが送られてきた。内容は唐沢家の当主が何を食べたとか、どんなテレビを見たとか、機嫌が良いといった類のものだった。
ついでに食事制限の必要があるかどうかも尋ねてきた。