彼女がこれほど丁寧に世話をしていたのは、他の人にあげるためだったのだ。
「実はあの種は完全なものではなくて、私もただ試してみただけで、まさか本当に生き残るとは思わなかったの。明日、季山監督と会うから、彼にあげられるわ」
藤原修は指を伸ばし、若芽に触れようとした瞬間、指が微かに硬直し、すぐに自分の手を引き戻し、この鉢植えの若芽を潰してしまいたいという衝動を抑えた。
彼の動きは抑制されながらも自制が難しく、手の甲に青筋が浮かんでいた。
彼の様子は時枝秋の視線に捉えられていた。
時枝秋は思わず彼を見つめた。彼は目を伏せ、瞳の奥の本当の感情を隠した。
彼女は彼の手の甲に自分の手を置いた。「若芽に触れてみたい?」
藤原修は何も言わなかった。
時枝秋は彼の指を導き、その若芽に優しく触れさせた。
指先から柔らかな感触が伝わり、藤原修の抑制された感情がようやく少し緩んだ。
「季山監督は先輩であり、年長者でもあるわ。私がこの花を彼に育てたのは、ほんの些細なことで、他意はないのよ」時枝秋は藤原修が何を考えているかほぼ分かっていた。
だから彼女は惜しみなく自分の本当の考えを一つ一つ口にした。
周囲の気圧も正常に戻り、先ほどのような低く暗いものではなくなった。
彼女は唇の端を上げ、微笑んだ。「私が育てている他の花も見てみる?」
「ああ」藤原修の声は穏やかになっていた。
しかし、感情は一時的に落ち着いたものの、彼の心の奥底はまだ完全には静まっていなかった。
夜になると時枝秋を激しく求め、特に激しく彼女を翻弄した。
翌日。
木村裕貴が時枝秋に付き添い、季山勝洋との約束の場所へ向かった。
このレコーディングスタジオは季山勝洋が指定した場所で、彼のほぼすべての作品のレコーディングがここで行われていた。
「季山監督」時枝秋は彼を見て挨拶した。
季山勝洋は穏やかな笑顔を浮かべた。「レコーディングスタジオは準備ができているよ。見てみて、まず慣れておいて、食事の後に戻ってきて録音しよう」
時枝秋は中に入って見学した。さすが季山監督御用達のレコーディングスタジオ、彼女が歌を録音するスタジオよりも設備が良かった。
彼女はしばらく見た後、尋ねた。「季山監督はさっきここで練習されていたんですか?」