その後、彼女は窓の外を横目で見つめ、複雑な表情を浮かべながら、しばらくしてようやくゆっくりと口を開いた。「愛しているかどうかなんて、もはやどうでもいいわ。起きてしまったことは取り返しがつかないし、今の状況も変えられないもの」
熊谷玲子は青木岑の声から深い憂いを感じ取り、友人として彼女のことが心配になった。
「岑、私たちが高校生の頃、あなたと西尾聡雄が付き合い始めた時、この世界におとぎ話は本当にあるんだって信じたわ。二人とも素晴らしい人だったのに、どうしてこんな風になってしまったの?本当に残念だわ。怒らないで聞いてほしいんだけど、私はあの寺田徹があなたにふさわしくないと思うの。だって、あの頃の学校であなたは…」
熊谷玲子の言葉は途中で、青木岑に遮られた…
「玲子、もういいの。過去は過去よ。私が西尾聡雄にどんな気持ちを持っていても、もう二度と一緒になることはできないわ。あなたも知っているでしょう。七年前のあの出来事が私にどれほどの打撃を与えたか。私は全てを失ったのよ。これ以上悲惨なことがあるかしら?あの時死んでいたのが私だったらよかったのに」
ここまで話すと、青木岑の声は詰まってきた…
熊谷玲子もわかっていた。あの出来事のせいで、青木岑は自分の輝きを隠し、平凡な人として生きることを選んだのだと。でも…それは彼女の過ちではないのに。
熊谷玲子は青木岑の肩に手を置き、慰めるように言った。「岑、聞いて。あなたも言ったでしょう、もうそんなに時間が経ったんだって。もう自分を責めるのはやめて。この何年もの間、あなたはずっと償い続けてきたじゃない。私は思うの、あの件を西尾聡雄のせいにするのは違うんじゃないかって。彼は何年も海外にいたし、あなたへの気持ちを考えれば、きっと何も知らなかったはずよ」
「それがどうしたの?彼は西尾家の人間よ。家族がしたことを、彼が完全に関係ないなんて言えるの?」青木岑は目を赤くして問いかけた。
「岑…」熊谷玲子が何か言おうとすると。
青木岑が手を上げて遮った。「玲子、もう何も言わないで。あなたは私の親友で、全て私のことを思って言ってくれているのはわかるわ。でも…私の経験したことは、あなたには本当の意味では分からないはず。だから、この件は私に決めさせて」