第16章:心の結び目

「体育の授業中だったんだけど、突然吉田伯母から電話があって、お母さんが雑貨屋の前で倒れたって。すぐに早退して、救急車も呼んだの」

「母さんはずっと元気だったのに、どうしてこんなことに?」青木岑は心配そうに言った。

そのとき、病室のドアが開き、醫師が入ってきた。「永田美世子さんのご家族の方、ちょっと来てください」

「はい」青木岑は急いで醫師について外に出た。

「患者さんのお嬢さんですね?」醫師は青木岑の年齢から推測した。

青木岑は頷いた……

「患者さんが高血圧だということはご存知でしたか?」醫師は厳しい口調で尋ねた。

「はい、母は薬も飲んでいますし、普段から休養も十分取っています。私も時間があれば血圧を測っていて、ずっと安定していました」

「患者さんは強いショックを受けて血圧が上昇したと思われます。お子さん方も気をつけてください。心臓も良くないし、高血圧もある。このまま注意を怠ると命に関わりますよ」

「ショック?」青木岑は意外そうだった。

自分は外で働いていて、二週間に一度しか帰れない。弟は素直だし、母をそこまで怒らせる人なんていないはずなのに。

「それは患者さんが目を覚ましたら、ご自身で聞いてみてください。一週間の入院で経過観察をお勧めしますが、いかがでしょうか?」

「はい、分かりました」看護師である青木岑は、この病気の深刻さを知っているだけに、おろそかにはできなかった。

「では、入院費用の手続きをお願いします」

「はい」青木岑は頷くと、急いで階下の会計窓口へ向かった。

「合計で十五万八千円になります」

「そんなに?」青木岑は困った表情を浮かべた。ここ数年の給料は半分を弟のために使い、残りの半分は寺田徹と一緒に家の頭金を払ったため、口座には六万円しか残っていない。一度に十五万円以上は出せない。

「お支払いされますか?早くしてください。後ろに並んでる方もいますから、邪魔にならないように」

「払います」青木岑は急いでクレジットカードを取り出した。このカードは去年作ったもので、二十万円まで利用できるはずだが、まだ一度も使ったことがなかった。

支払いを済ませ、再び病室に戻ると、母はすでに目を覚ましていた……

「お母さん、目が覚めた?」青木岑は恐る恐る尋ねた。