「よく私に聞けたものね。私に言い訳しないでよ。あなたたち、こっそり会ってたんでしょう?」永田美世子は青木岑を睨みつけた。
青木岑は言葉を失った。確かに、西尾聡雄とは会っていた。それは本意ではなかったが……
でも母は彼女の説明を聞く耳を持たないだろう。今は何を言っても、母をより怒らせるだけだ。
「お母さん、ゆっくり休んでください。明日また来ます」
「来なくていいわ。もし恥ずかしくないなら、もう二度と私に会わないで。私が原伯父のように早死にしてしまうから」
母のこの皮肉な言葉に、青木岑の心は痛んだ……
原伯父の死について、彼女は七年間ずっと後悔してきた。この七年間、誰よりも辛い思いをしてきたのだ。
そう思うと、もう何も言えなくなり、病室のドアを開けて出て行った……
「姉さん、送るよ」
原幸治が後を追いかけてきた。姉の気持ちが落ち込んでいることは分かっていた。
「姉さん、母さんはあんな気難しい性格だから、気にしないで。ここ数年ずっとこんな感じだし、本にも書いてあったけど、この年頃の女は更年期になりやすいって。母さんもきっとそうだよ」
「あなたったら、どんな本読んでるのよ」青木岑は呆れながらも微笑ましく弟を見た。
「姉さん、ここは心配しないで。僕が母さんの面倒を見るから、姉さんは用事があったら行って」
青木岑は頷いた。「明日、数日休暇を取って母さんの看病に来るわ。あなたは明日から学校に戻りなさい。そうそう、これが来月の生活費よ、持っていて」
青木岑はバッグから二万円を取り出して弟に渡した……
「姉さん、いらないよ。先月のもまだ残ってるし、学校でバイトもしてるから。お金はもういいよ。姉さんは結婚するんだから、徹兄さんとお金が必要なところがたくさんあるでしょう」
「取っておきなさい。結婚したってこれくらいどうってことないわ。幸治、姉さんを思いやってくれるのは分かるけど、必要なものは節約しちゃダメよ。今は成長期なんだから、おいしいものをたくさん食べなさい」そう言って、青木岑は愛情を込めて弟の頭を撫でた。
「分かったよ、姉さんもね」
青木岑が病院を出るとき、複雑な気持ちだった……
西尾聡雄がこんなに早く母たちを見つけるとは思わなかった。彼は一体何がしたいのだろう?
どうやら……本当に話し合う必要がありそうだ。