第14章:受動的

「はい、看護師長。」

「新しい防塵マスクを持ってくるように言ったでしょう。耳が聞こえないの?」

「はい、すぐに持ってきます。」

「青木先輩、どうかしましたか?何か心配事でもあるんですか?休みを取った方がいいんじゃないですか?ずっとぼんやりしているみたいですけど。」新人の山田悦子が思いやりを込めて尋ねた。

青木岑は疲れた様子で首を振った……

一日中、彼女は落ち着かなかった。しかも、寺田徹との冷戦状態のせいではなかった。

考えてはいけない男のことばかり考えていた……

本当に彼は戻ってきたの?昨夜のことは夢じゃなかった?

そんなぼんやりとした状態で退勤時間になり、青木岑は白い看護師の制服を脱ぎ、淡いブルーのワンピースに着替え、バッグを持って外に向かった。

ちょうどその時、玄関に停まっている白いシボレーが寺田徹の車だと気づいた。

先月新しく購入したばかりの車だった。結婚を予定していたので、寺田家の両親からお金をもらい、二人の給料と合わせて十数万円で購入した、なかなかいい車だった。

ナンバープレートは0510、寺田徹の誕生日だ。間違いなく彼の車……

ここに停めているということは、彼女を待っているのかしら?

青木岑が近づこうとした時、岡田麻奈美がミニスカートを履いて、素早く助手席のドアを開けて座り込んだ。

そして、車は走り去っていった……

青木岑の瞳が徐々に暗くなっていく。彼女は慌てることなく携帯を取り出し、電話をかけた。

「何?」向こう側で、寺田徹はいらだった様子で答えた。

「仕事終わった?一緒に帰りたいんだけど。」

「まだだよ。手術があるから残業なんだ。先に帰っていいよ。用もないのに電話しないでくれ。じゃあな。」

そう言って、寺田徹は電話を切った……

青木岑は嘲笑うように笑った。寺田徹が嘘をついた理由は分かっていた。彼女への報復なのだろう。

でも、こんなやり方は本当に下品だわ……

青木岑は突然、三年間付き合ってきたこの平凡な男が、全然平凡じゃないことに気づいた。

空を見上げると、空は彼女の気持ちと同じように灰色で曇っていた……

その時、熊谷玲子から電話がかかってきた……

「岑、仕事終わった?」

「うん。」

「うちに来ない?今日休みだから、美味しいものを作ったの。豚足の煮込みよ。」

「ちょうどお腹すいてたの。待っててね。」電話を切ると、青木岑はタクシーを拾って熊谷玲子の家に向かった。

熊谷玲子の両親は地方都市に住んでいて、彼女は通勤の便利さを考えて空港近くに部屋を借りていた。とても居心地の良い部屋だった。

青木岑は暇があれば食事に来ていた……家と病院以外では、ここくらいしか行く場所がなかった。

豚足が出来上がって食卓に並べられたが、青木岑が食べ始める前に、熊谷玲子は昨日のことについて矢継ぎ早に質問を始めた。

しつこい追及に耐えきれず、青木岑は全てを話すしかなかった……

もちろん、強引なキスなどの過激な場面については、適度に省略して軽く触れる程度にした。

「こんな感じよ、玲子さん、どう思う?」

青木岑は唇を噛みながら大人しく熊谷玲子を見つめた。水を含んだような大きな瞳が可愛らしかった。

「すごい!興奮する話ね。つまり、西尾聡雄があなたにプロポーズしたってこと?」熊谷玲子は驚いた様子で彼女を見つめた。

「お姉さん、お願い、それが重要なことじゃないでしょ。今は徹が私のことを信じてくれなくて、別れようとしているの……」青木岑は抗議した。

「岑、正直に答えて。まだ西尾聡雄のことが好きなの?」熊谷玲子は真剣な表情で尋ねた。

その言葉を聞いて、青木岑は少し戸惑った様子を見せた……