青木岑は着替えを済ませると、同じ科の看護師の付き添いを断り、一人で特別病棟の最上階へと向かった。
途中、彼女は考えていた。手術室に入ったら、もし手術が失敗すれば、家族に会う機会すらないかもしれないと。
思い切って携帯を取り出し、母親に電話をかけたが、長く鳴り続けても誰も出なかった。明らかに彼女との会話を避けているようだった。
青木岑はため息をつき、弟の原幸治に電話をかけた。
「姉さん」向こうから原幸治の若々しい声が聞こえた。
「幸治、授業中?」
「いや、今日はあまり授業がないんだ。図書館で資料を調べてるところ。何かあった?」
「ああ、今日は忙しくて、第四病院に行けそうにないの。時間があったら、お母さんの様子を見に行ってあげて」
「わかってる。資料を調べ終わったら行って、ついでに夕食も買っていくよ」