第37章:警察署

「ああ、なんでもないんだけど、忘れ物があったことを思い出したの。時間があるときに持ってきてくれない?」

「はい、帰って探してみます」青木岑は頷いた。

「持ってきたら岡田麻奈美に直接渡してくれればいいよ」寺田徹は青木岑を刺激しようとして付け加えた。

しかし青木岑は少しも驚いた様子もなく、ただ冷静に「はい」と答えた。

その後、青木岑は彼とすれ違って去っていった……

寺田徹は胸が苦しくなった。彼女に対して何の感情もないというのは嘘だった。あれほど長く彼女を追いかけていたのだから。

三年間付き合って、彼女によくしてきた。今突然別れることになって、心が痛まないはずがない。

青木岑もきっと辛いはずだと思っていた。だって今自分は岡田麻奈美と付き合っているのだから。

でも先ほどの青木岑の目には、少しも心の痛みが見られなかった。

もしかして……この数年間、彼女は一度も自分を本当に愛していなかったのだろうか?愛していたのは元カレだけだったのか?

そう考えると、寺田徹の目がさらに冷たくなった。

青木岑は仕事が終わると、まっすぐ実家に寄って、退院したばかりの母親に栄養剤を買っていった。母親は良い顔をしないので、置いていくとすぐに帰り、食事もしなかった。

その後アパートに戻り、部屋を徹底的に掃除したところ、寺田徹の物が散らばっているのを見つけた。

彼女はそれらを丁寧に収納箱に入れて、明日持っていくことにした。

最後にぐったりとベッドに横たわり、スマートフォンで先にクレジットカードの借り入れを返済した。期限内で良かった。そうでなければ手数料が恐ろしく高くなるところだった。

それから熊谷玲子にLINEを送った。

「いる?」

「うん」

「口座番号教えて。返すから」

「もうそんなに早く?急いでないよ」熊谷玲子が返信した。

「あなたは急いでなくても、私は気が急くの。人にお金を借りているのは気持ちが良くないわ」

「そんなにたくさんのお金どうしたの?寺田徹が頭金返してくれたの?」熊谷玲子は尋ねた。

「うん」説明を避けるため、青木岑はあいまいな返事をした。この金は西尾聡雄のアシスタントとして病院からもらった報酬だった。

「それはよかったね。はは、わかった。こんなに信用できるなら、今度また貸してって言われても喜んで貸すよ」熊谷玲子は笑顔の絵文字を送ってきた。