「お金?ないわ、全部家を買うのに使っちゃったの。欲しいなら待つしかないわ、貯まるまで待って」
「わかりました」青木岑は言い終わると、立ち去ろうとした。
「岑、何かあったの?」
「幸治が交通事故に遭ったの」青木岑の声は少しかすれていた。
「そんな大変なことがあったのに、私に頼んでも無駄よ。あなたの金持ちの元カレに頼めばいいじゃない」寺田徹は突然そう言い放った。
青木岑は何も言わず、ただ失望の色を浮かべて立ち去った。
言い終わった後、寺田徹も後悔した。なぜ彼女をそんな風に皮肉るようなことを言ったのだろう?
「徹さん、誰の声?早く戻ってきてよ」寝室から甘ったるい女の声が聞こえてきた。
実は寺田徹のカードにはまだお金が残っていた。結婚式の費用と物を買うための二百万円だ。
もしこの時にそのお金を出したら、青木岑は感動して彼と復縁してくれるだろうか?
でも、もし青木岑がお金を受け取っても復縁してくれなかったら、それこそ損な話だ。
寺田徹のマンションを出ると、青木岑は熊谷玲子からの電話を受けた。
「ねぇ、今飛行機から降りたところよ。メッセージ見たわ。何があったの?なんでそんなにお金を借りる必要があるの?」熊谷玲子の声も焦りを帯びていた。
「幸治が交通事故に遭って、病院で救命措置を受けているの。手術費用に六百万円必要なの」
青木岑の声は今やすっかりかすれていた。
「えっ?幸治が事故に?落ち着いて、今どこにいるの?すぐ行くわ」
「三環のレインボーデパートの近くよ」
「わかった、すぐ会いましょう」
三十分後、熊谷玲子はタクシーで駆けつけ、青木岑と一緒にKFCに入った。
「玲子、本当にもう私にはどうしようもないの」
「警察はどう言ってるの?加害者は?」
「まだ調査中よ。今回は四、五人の学生が怪我をしたみたいで、幸治だけじゃないの。だから警察の対応も複雑になってて、賠償金も時間がかかるみたい。でも幸治の手術はそんなに待てないの、早ければ早いほどいいの」
「わかったわ。じゃあ、こうしましょう。私の貯金が百六十万円あるから、まずそれを使って。それから実家の両親や従姉妹、友達にも借りてみるわ。全部で二百六十万円くらい集められると思う。残りはまた考えましょう」
「ありがとう、玲子」青木岑は熊谷玲子の手を握り、目を赤くした。