「はい」青木岑は正直に答えた。
「怖くない?」西尾聡雄の声が急に優しくなり、まるで子供をあやすかのようだった。
「怖くないわ。私、医学部出身だから、遺体には慣れているの。ただ、中に横たわっているのがおばあちゃんだと思うと、どうしても悲しくなってしまうわ」
「生老病死は自然の摂理だ。誰にも変えることはできない。気を楽にしなさい」
「わかってる」
青木岑は言った後、さらに付け加えて尋ねた。「どうしてこんな遅くまで起きてるの?」
「出張から帰ってきたところだ」
「こんな遅くに?」
「ああ」
「じゃあ、きっと疲れてるでしょう。早く休んで」青木岑は静かに言った。
しかし、西尾聡雄は全く休む気配を見せず、答えた。「電話はこのままつないでおこう。僕が付き添っているから」
青木岑が断るのを恐れてか、西尾聡雄はさらに付け加えた。「こうして一緒に通夜を過ごそう」
西尾聡雄の好意に対して、青木岑にはもう断る理由がなかった。彼がどんな性格なのかもよく分かっていた。
徹夜のせいか、目が少し痛くなってきて……
「うん」
長い沈黙の後、青木岑はたった一言だけ返した。そして携帯を置いた。画面には通話が続いていることが表示されていた。
ただ、二人とも話さなくなっただけ……
このような付き添いは間違いなく最も特別なものだった。実質的な意味はなかったかもしれないが、青木岑はこの悲しい夜に、もう一人ぼっちではないと感じていた……
青木岑は静かに亡くなったおばあちゃんのために紙銭を焼き、眠気もなく、夜明けまで続けた。
午前五點半、空が明るみ始めた頃。
青木重徳が黒いシャツと黒いスラックス姿で近づいてきた。手にはLVの古いスカーフを持っていた。
青木岑が何か言う前に、直接彼女の肩にかけた……
「要らないわ」
「かけておけ。おばあちゃんの形見だ。嫌でもない限り」
青木重徳がそう言うと、青木岑は断りづらくなった。そうでないと、おばあちゃんの物を嫌がっているように見えてしまう。
青木重徳は青木岑を上から下まで見て笑いながら言った。「岑、そのドレス、かなり高価そうだね」
「見間違いよ。レプリカだわ」