「はい」青木岑は正直に答えた。
「怖くない?」西尾聡雄の声が急に優しくなり、まるで子供をあやすかのようだった。
「怖くないわ。私、医学部出身だから、遺体には慣れているの。ただ、中に横たわっているのがおばあちゃんだと思うと、どうしても悲しくなってしまうわ」
「生老病死は自然の摂理だ。誰にも変えることはできない。気を楽にしなさい」
「わかってる」
青木岑は言った後、さらに付け加えて尋ねた。「どうしてこんな遅くまで起きてるの?」
「出張から帰ってきたところだ」
「こんな遅くに?」
「ああ」
「じゃあ、きっと疲れてるでしょう。早く休んで」青木岑は静かに言った。
しかし、西尾聡雄は全く休む気配を見せず、答えた。「電話はこのままつないでおこう。僕が付き添っているから」
青木岑が断るのを恐れてか、西尾聡雄はさらに付け加えた。「こうして一緒に通夜を過ごそう」