なんと、西尾聡雄はただ静かに一言、「これからは青木重徳というサイコパスから離れていろ」と言った。
「……」一瞬、青木岑は何と答えていいのか分からなくなった。
「聞いてるのか?」西尾聡雄は子供っぽく警告した。
「うん、分かってる」
「出棺は7時だよね?」さっき電話で、陰陽師がそう言っていたのを聞いた。
「そう」青木岑は頷いた。
「じゃあ、後で霊園の入り口で待ってる」
「いいえ、私は後で直接病院に行きます」
「もう休暇の手続きは済ませておいた。今日は家で休んでいろ」
「えっと……」青木岑は再び言葉を失った。
この凄腕の人は一体どれだけ手際がいいんだろう、もう休暇まで取っておくなんて。
でも気になるのは、最近診察室はとても忙しいのに、看護師長がそんなに簡単に休暇を認めるのだろうか?
「看護師長は……私の休暇を承認してくれたんですか?」青木岑は少し疑わしげに尋ねた。
すると、西尾聡雄はさらっと「吉田信興に電話したんだ」と言った。
「はい、あなたの勝ちです」西尾聡雄が吉田院長に電話したと聞いて、青木岑は全身の血が凍る思いだった。
産婦人科の研修看護師が休暇を取るのに、直接院長に電話するなんて、これは自殺行為だ。
とはいえ、西尾聡雄の立場なら吉田院長に電話しても、一日どころか一年の休暇だって文句は出ないだろう。
「じゃあ、後でな」言い終わると、青木岑が何か言う前に、西尾聡雄は電話を切った。
ちょうどその時、携帯の電池切れを知らせる通知が来た……
丸六、七時間も、西尾聡雄は電話の向こうで彼女に付き添い、しかも眠りもしなかった。
どれだけ意志が強いんだろう……
時々、青木岑は錯覚を覚えることがある。西尾聡雄は今でも彼女を深く愛しているのではないかと。彼は一度も口にしたことはないけれど。
でもそれは錯覚に過ぎない。冷静に考えると、青木岑は西尾聡雄との間には、ただの未練が残っているだけだと思う。
7年前に振られた未練、7年前の一方的な別れへの未練だけ……
出棺の日、空は灰色で、風も強く、青木岑の気持ちは重かった。