第104章:戦慄

西尾聡雄の体の匂いをよく知らなかったら、彼女は本当に手を出すところだった……

「西尾さん、離して」彼女は少し緊張した様子で言った。

西尾聡雄は何も言わず、ただ青木岑をきつく抱きしめ、彼女の耳元に顔を寄せた。重たい息遣いが、青木岑の心をくすぐり、濃厚なアルコールの匂いが空気に漂っていた……

青木岑は眉をしかめた……

「お酒を飲んだの?」と彼女は尋ねた。

西尾聡雄はまだ黙ったままだった。佐藤然と飲んで帰宅した後、ワインセラーから大切にしていたラフィーを取り出し、一人で一本を空けた。青木岑への想いは募るばかりだった。

かつての七年間、彼は一人で耐えてきた……

しかし今、青木岑が傍にいるのに、24時間も耐えられない。人が一番怖れるのは、習慣になることだ。

彼女が傍にいることに慣れてしまったから、一瞬の孤独さえ耐えられなくなった。

「西尾さん、まず離して。酔ってるわ」青木岑は彼にきつく抱きしめられ、身動きが取れなかった。

「嫌だ」

しばらくして、西尾聡雄は我儘に二言を発した……

「西尾さん、一体何がしたいの?」

「何がしたいかって?」西尾聡雄は片手で青木岑の顎を掴み、横顔を見つめた。

一瞬にして、部屋中が甘い空気に包まれた……

青木岑は唇を震わせ、どう答えていいか分からなかった……

西尾聡雄は目の前の青木岑を見て、内なる衝動を抑えきれず、もう片方の手が彼女の背中を落ち着きなく這い回った。

彼は自分が何を望んでいるか分かっていた。

そして彼女も、彼が何を望んでいるか分かっていた。

「西尾さん、やめて。私は…まだ心の準備ができてない」言い終わると、青木岑は彼を強く押しのけた。

西尾聡雄は体を揺らし、後ろのソファーに倒れ込んだ。

「ごめんなさい」青木岑は顔を背け、彼の目を見ることができなかった。

「なぜ謝る」西尾聡雄は彼女を見つめながら、一言一言はっきりと尋ねた。

「私は……」彼女はどう答えていいか分からなかった。

「謝るべきは俺の方だ。すまない、あんなことを黙ってしていて。ただ、君に傷つかれたくなかっただけなんだ」西尾聡雄はソファーに寄りかかり、横を向いて言った。