西尾聡雄の体の匂いをよく知らなかったら、彼女は本当に手を出すところだった……
「西尾さん、離して」彼女は少し緊張した様子で言った。
西尾聡雄は何も言わず、ただ青木岑をきつく抱きしめ、彼女の耳元に顔を寄せた。重たい息遣いが、青木岑の心をくすぐり、濃厚なアルコールの匂いが空気に漂っていた……
青木岑は眉をしかめた……
「お酒を飲んだの?」と彼女は尋ねた。
西尾聡雄はまだ黙ったままだった。佐藤然と飲んで帰宅した後、ワインセラーから大切にしていたラフィーを取り出し、一人で一本を空けた。青木岑への想いは募るばかりだった。
かつての七年間、彼は一人で耐えてきた……
しかし今、青木岑が傍にいるのに、24時間も耐えられない。人が一番怖れるのは、習慣になることだ。
彼女が傍にいることに慣れてしまったから、一瞬の孤独さえ耐えられなくなった。
「西尾さん、まず離して。酔ってるわ」青木岑は彼にきつく抱きしめられ、身動きが取れなかった。
「嫌だ」
しばらくして、西尾聡雄は我儘に二言を発した……
「西尾さん、一体何がしたいの?」
「何がしたいかって?」西尾聡雄は片手で青木岑の顎を掴み、横顔を見つめた。
一瞬にして、部屋中が甘い空気に包まれた……
青木岑は唇を震わせ、どう答えていいか分からなかった……
西尾聡雄は目の前の青木岑を見て、内なる衝動を抑えきれず、もう片方の手が彼女の背中を落ち着きなく這い回った。
彼は自分が何を望んでいるか分かっていた。
そして彼女も、彼が何を望んでいるか分かっていた。
「西尾さん、やめて。私は…まだ心の準備ができてない」言い終わると、青木岑は彼を強く押しのけた。
西尾聡雄は体を揺らし、後ろのソファーに倒れ込んだ。
「ごめんなさい」青木岑は顔を背け、彼の目を見ることができなかった。
「なぜ謝る」西尾聡雄は彼女を見つめながら、一言一言はっきりと尋ねた。
「私は……」彼女はどう答えていいか分からなかった。
「謝るべきは俺の方だ。すまない、あんなことを黙ってしていて。ただ、君に傷つかれたくなかっただけなんだ」西尾聡雄はソファーに寄りかかり、横を向いて言った。