「どうして病院に来たの?」青木岑が近づいて行き、少し意外そうに西尾聡雄を見た。
「夜食」西尾聡雄は青木岑の質問に答えず、手に持った食事箱を軽く掲げた。
実際、青木岑はお腹が空いていた。長時間働いて、疲れて空腹だった。
だから断ろうとした言葉が、口元で「ありがとう」に変わってしまった。
そして青木岑が食事箱を受け取ると、西尾聡雄がたくさん買ってきたことに気づき、すぐに半分を山田悦子に渡した。
「先輩、ありがとうございます」と言った後、山田悦子は小声で尋ねた。「先輩、あの人誰?すごくかっこいいですね」
「友達よ」青木岑は声を落として、こっそりと答えた。
「信じられません。友達が真夜中に夜食を届けに来るなんて。あ、邪魔しちゃいけませんね。先に失礼します」そう言って、山田悦子は夜食を持って事務室に入っていった。
廊下には西尾聡雄と青木岑だけが残された……
青木岑は近くのベンチに座り、ゆっくりと食事箱を開け、小籠包を一つ取り出して大きく一口かじった。
三口ほどで食べ終わると、二つ目を取り出した。
青木岑のそんな上品とは言えない食べ方を見て、西尾聡雄は口角を少し上げた。「そんなに空いてたの?」
「すっごく空いてた」青木岑は正直に答えた。
「午後のことについて、まだ怒ってる?」西尾聡雄が尋ねた。
「午後?何があったっけ?」青木岑は一瞬固まり、何が起きたのか思い出せないようだった。
「まあ、聞かなかったことにする」西尾聡雄は諦めたような表情を見せた。当事者が覚えていないなら、もう触れる必要もないだろう。
「疲れてるみたいだけど、回診に行ってたの?」
「ううん、手術してた」
「手術?君が?」西尾聡雄は驚いた表情で青木岑を見つめた。
「そう、私よ」
「この病院の特徴なの?」
「どういう意味?」青木岑は困惑した表情で、西尾聡雄の質問の意図が分からないようだった。
西尾聡雄は片手をポケットに入れ、青木岑を横目で見た。「醫師を使わずに、看護師に手術をさせるなんて」
「醫師が夜勤をサボって、難産の妊婦さんが緊急で来たから、私がやったの」先ほどの出来事について、青木岑は軽々しく話した。
西尾聡雄は彼女の顔をしばらく見つめ、ただ一言「本当に勝手だな」と言った。