青木岑が病院に着いた時、美絵の姿はもうなく、看護師長と見波、照子だけがいた。
「どうしたの?美絵は?夜勤のはずでは?」
「怪我をしたの」
「え?」青木岑は照子の言葉に少し驚いた。
看護師長はためらいながら口を開いた。「実はね、1号室の患者さんが興奮状態で、美絵が採血しようとした時に緊張しすぎて手が震え、針が動いてしまったの。患者さんが怒って、ガラスの花瓶を美絵の頭に投げつけたわ。美絵は第一病院の救急外来に運ばれたの」
「大変だわ。額を7針縫ったって。傷跡が残らないといいけど」見波は少し面白がっているような様子だった。
照子は口角を歪めて、意地悪そうに言った。「1号室は簡単じゃないって言ったでしょ。なのに二人とも争って。ほら、こうなったでしょ?美絵は手技も下手なのに、桑原坊ちゃんの採血なんかするから、自業自得よ」