青木岑は怒りのあまり、突然手を離すと、桑原勝はバランスを崩して地面に座り込んでしまった。
「この馬鹿女!なんで手を離すんだ?殺す気か?」
「これは衝撃療法よ」青木岑は挑発的な目で彼を見つめ、先ほどの不適切な発言への仕返しをした。
「なんだそのくだらない療法は、苦情を入れるぞ」桑原勝は抗議した。
「いいわよ、もうやめてあげる。まるで私がこの仕事なしじゃ生きていけないみたいな言い方ね。桑原勝、よく聞きなさい。あんたの世話にはもう十分付き合ったわ。隣の爺さんの方がよっぽど扱いやすいわよ。爺さんと将棋を指す方がまだマシ。あんたに針を刺すときのヒヤヒヤよりはね、ふん」そう言うと、青木岑は踵を返して立ち去った。
桑原勝は一人で芝生の上に取り残され、立ち上がれない。周りには誰もいなかった。
病院の裏庭に放置され、灼熱の太陽の下で10分間も晒され続け、桑原勝は半死半生の怒りだった。
最後は通りかかった看護師さんが発見し、急いで桑原勝を部屋まで付き添って戻った。
部屋に戻ると、すぐに携帯を手に取り、この療養区の責任者に電話をかけようとした。
しかし、ダイヤルしようとした時、手が止まった。
青木岑の言う通りだ。最悪の場合、彼女が辞めるだけだ。もし青木岑が去ったら、あの愚かな看護師たちに注射されることになる。最初のバカみたいに失敗されたら、たまったものじゃない。
そう自分を納得させた後、桑原勝は度量の大きな人間として、あの馬鹿女を一度だけ許すことにした。
しかし思いがけないことに、青木岑の方から桑原勝の担当を外れることを申し出た。理由は単純だった。
扱いにくいのはまだいい。時々セクハラされるのは我慢できない。
今日のことだって、西尾聡雄に知られたら、殺されかねない。
西尾聡雄との結婚は本意ではなかったけれど、青木岑は他の男性と親密になりすぎるのはよくないと考えた。
「青木さん、そんなことしないでください。あなたが担当を外れたら、他の人は誰も引き受けられません。あなたが一番適任なんです」見波は必死に彼女を説得した。
「大丈夫よ。ここには看護師がたくさんいるわ。手先の器用な人だっているはず。それに点滴なんて難しくないわ。何度かやれば慣れるし、私がいなくても同じよ」