「あっ、西尾社長、中尾布衣をご存知ないんですか?最近放送中のファンタジードラマ『封神演義』の主演女優で、葵之上を演じているんですよ」
「見たことがない。知らない」
「はぁ、そうですか」永田さんは思った。社長がドラマを見ないのは分かるけど、毎日ニュースでも中尾布衣の話題が出ているし、街中には彼女の宣伝写真が溢れているのに。知らないはずがないのに。やっぱり社長は地球人じゃなくて、宇宙人なんだ。
一方、中尾布衣は記者会見に出席しようとしていた。
スキャンダルが報じられ、話題性が更に高まり、多くのメディアが取材のために入り口に集まっていた。
女性マネージャーが慎重に尋ねた。「布衣、今日のトップニュースは私たちの事務所が仕掛けたの?」
「もちろん違うわ」
「えっ?私たちのチームが企画したのかと思ってた。いいニュースよね。一気にSNSのトレンド入りしたし、この後の記者会見で来月公開の映画の宣伝もできるわ。頑張ってね」
中尾布衣は小さな鏡で自分の姿を確認しながら、微笑んだ。
このスキャンダルは彼女自身も予想していなかった。プルマンでの食事は、アシスタントが1ヶ月前に予約していたものだった。
昨夜、GKの皇太子も同じ場所で食事をしていたなんて。誰が皇太子なのか分からなかったことが本当に悔やまれる。
近づくチャンスだったのに。メディアはいつも風評を立てるのが好きだけど、今回は自分にとって追い風になってくれた。
この機会にGKの皇太子と繋がれるかもしれない。女優にとって、セレブと結婚することは究極の夢なのだから。
カメラの前で、中尾布衣は愛らしく微笑み、記者たちの質問に丁寧に答えていった。
ついに、ある記者が質問した。「中尾さん、昨夜GKの皇太子との食事について教えていただけますか?これは交際宣言ということでしょうか?」
中尾布衣は少し恥ずかしそうに、「それについては、今はお話しできません。でも、良いお知らせがありましたら、皆様にもお伝えしますね」
中尾布衣の曖昧な回答は、この件への注目度を更に高めることとなった。
別の記者が質問を投げかけた。「GK傘下のOWQレディースシューズの新シーズンの広告モデルに選ばれたそうですが、これはGKの皇太子とのご関係があってのことですか?それとも広告の仕事がきっかけで西尾社長と親密になられたのでしょうか?」