「洋子……洋子」青木源人は複雑な表情で二文字を絞り出した。
「この数年、体調が良くないみたいね。ニュースでよく病気の話を見かけるわ」
青木源人は苦笑いを浮かべた。「ああ、年寄りだからな。年を取って役立たずになってしまった」
永田美世子は微笑んだ。「そんなことないわ。もし役立たずなら、どうやって神谷香織との間に子供たちを作れたの?それに、この何年か、大奥と二の間は仲良く過ごしてきたじゃない。人としては成功してるわ。ただ父親としては少し足りなかっただけ。ほら見て、私たちの岑ももう24歳よ」
永田美世子は手を伸ばして青木岑を前に引き寄せた。
青木源人は顔を上げ、青木岑を見たとき、複雑な表情を浮かべた。
青木岑の容姿は特異で、青木源人にも永田美世子にも似ていなかった。
むしろ、二人よりも優れているとさえ言えた。
彼女は青木婉子のように、お金で顔を飾り立てることもなく、整形や化粧に頼ることもなかった。
素顔のままで、その気品だけで誰をも圧倒していた。
青木源人は昔、女関係の問題で多くの女たちが嫉妬し合い、芸能ゴシップでは六人の愛人を同時に囲っていたことが暴露され、中絶した女も多く、精神病院に入院した女性も数人いたという。
当時の騒動は清朝の後宮さながらで、陰謀と策略が渦巻き、最後まで無事だった者はほとんどいなかった。
永田美世子は青木源人の愛人の一人として、幸運でもあり不運でもあった。
幸運なのは青木岑を産み、無事に育て上げたこと。不運なのは、これまでの年月、青木岑が青木家の門をくぐれなかったことだ。
外から見れば、永田美世子の豪門入りの望みは空振りに終わり、損ばかりだった。
しかし何年も経った今、思いやりのある娘を得たことも、一つの幸せと言えるだろう。
「岑、こちらへ来て。青木伯父さんと呼びなさい。原父さんより十数歳年上なのよ」永田美世子がそう紹介すると、青木岑も少し戸惑った。
実の父を伯父さんと呼ぶ?亡くなった叔父を父と呼ぶ?母の明らかな復讐だ。
不適切だと分かっていても、青木岑は素直に「青木伯父さん」と呼んだ。
「洋子、これはどういうつもりだ?」青木源人はその「伯父さん」という呼び方に押しつぶされそうになった。
「別に何も。挨拶しただけよ」永田美世子は相変わらず笑顔で、とても明るく笑った。