「でも、あなたの膝の上で寝るのを甘やかしてはいけないわ」青木岑は苦笑いを浮かべた。
西尾聡雄の愛情は、彼女を天真爛漫に甘やかしすぎていた……
二人はマイバッハの車内で一時間も過ごしていた。イオンモールから御苑までは10分もかからない距離なのに。
青木岑は西尾聡雄の膝の上で眠ってしまい、それも一時間も。
そしてその一時間、西尾聡雄はただ静かに座っていた。本当に静かな美男子だ……
「それがどうしたの?あなたが気持ちよく眠れれば、それでいいんだ」
「あなた、私にこんなに優しくしてくれて、私、傲慢になっちゃうわ」
「君には傲慢になる資格がある」
「ねぇ、早く上に行きましょう」青木岑は車のドアを開けて降りようとしたが、足がしびれていることに気づいた。
おそらく先ほど寝ていた時の姿勢があまりにも気持ちよすぎて、足が感覚を失い、まったく力が入らなかった。
「あっ……」
「どうしたの?」
「足が……しびれちゃった」
「動かないで、抱っこしてあげる」西尾聡雄が近づいて、彼女を抱き上げようとした。
青木岑は突然言った。「あなた、おんぶして上がってくれない?」
西尾聡雄はほんの少し驚いただけで、一言だけ答えた。「いいよ」
青木岑はただ突然思いついて、西尾聡雄におんぶしてもらいたかった。ロマンチックだと思って。
西尾聡雄の体格と力なら、彼女をおんぶするのは簡単なことだった……まったく負担にならない。
でも彼女はエレベーターで上がると思っていたのに、なぜか展開が変わってしまった……
「ちょっとちょっと、エレベーターはあっちよ」青木岑は反対側を指さした。
「知ってる」
「知ってるのにこっちに行くの?」
「階段を使いたいんだ」
「お兄さん、うちは16階よ」
「知ってる」
「知ってるのに行くの?」
「16階くらい、どうってことないさ。ただ時間がゆっくり過ぎていくのを楽しみたいんだ。こうして一緒にいる時間を。いつか年を取って、君をおんぶできなくなる日が来る。だから若いうちに、たくさんおんぶして、素敵な思い出を作っておきたいんだ」
そう言うと、青木岑が反応する前に、西尾聡雄は最初の階段を上り始めた。
青木岑は目が熱くなるのを感じた……
彼女は、西尾聡雄が大バカだと思った。エレベーターがあるのに、階段を使うなんて。