そのとき、青木岑の携帯電話が不適切なタイミングで鳴り出した……
西尾聡雄の動きも止まった……
「あの……電話が来たんだけど」青木岑は少し気まずそうに言った。
西尾聡雄は軽くため息をつき、立ち上がってテーブルの上の携帯電話を青木岑に渡した。
原幸治からの電話だった……
「幸治?」
「姉さん、家に着いた?」
「うん、着いたわ。何かあった?」
「別に、ただ言いたかっただけ。心配しないで、このことは母さんには言わないから。実は言わなくても分かってたんだ。姉さんが寺田兄と別れた後、彼から二回電話があって、西尾兄と関係があるんじゃないかって感じてた。それに前に西尾兄が車をくれた時、もう確信したんだ」
「ごめんね、幸治。隠すつもりじゃなかったの」
「分かってるよ、姉さん。気にしないで。責めてるわけじゃないんだ。ただ姉さんに心の負担を感じてほしくないだけ。僕は母さんと違って、姉さんの幸せを応援したいんだ。弟として、姉さんのどんな決定も無条件で支持するよ。姉さんが幸せなら」
「ありがとう、幸治」
「僕たちの間でそんな言葉いらないよ。感謝するなら僕の方だよ。これまで家族のこと、僕と母さんのことを見てくれてありがとう」
「幸治、あのクラスメイトの女の子は……?」
「彼女は僕の彼女じゃないよ、姉さん。確かに僕のことを好きみたいだけど、僕は彼女のことは好きになれない。だって、スポーツカーを持ってから近づいてきただけだし、何を考えているか分かるから」
「冷静に考えられてよかったわ。それに、まだ若いし、今付き合っても安定しないでしょう。これから就職の問題もあるし、そう単純じゃないのよ」
「分かってるよ、姉さん」
「それならいいわ。早く寝なさい」
「うん、西尾兄に車のお礼を伝えて。本当に最高だよ」
そう言って原幸治は電話を切った……
青木岑は携帯を持ったまま少し照れくさそうに西尾聡雄を見た。「幸治が、車のお礼を言ってって」
「そうやって恩返しするのか?こんな大事な時に電話してくるなんて?タイミングを計ったんじゃないのか?」西尾聡雄は、あの生意気な幸治に車を返せと言いたかった。まったく白眼視だ、自分の大事な時を邪魔されて。
「こほん、こほん……」青木岑は乾いた咳をした。
こんなにも順調に進んでいた事が、結局原幸治によって台無しにされてしまった。