第285章:そんなに怖いの、お母さん知ってる?(2)

「プッ……誰のバカがそんなこと言ったの?教えてよ、殺さないから約束する」

青木岑は思った。吉田院長はなんて正直な人なのに、なぜ悪く言われなければならないのか……

「そんな話、他の人は信じるかもしれないけど、私は信じないわ。だって……私が南区に来たばかりの頃、出世のために吉田院長を誘惑しようとしたけど、失敗どころか、クビになりかけたのよ」

「はぁ……随分と大胆なことをしたのね」

「仕方なかったの。当時、子供が病気で、お金が必要だったの。私も焦っていたわ。後で院長が事情を知って、病院を代表して援助してくれて、権威のある専門医も紹介してくれた。すべてに感謝しているわ。だから今でも南区で働き続けられているのよ」細川玲子は話しながら、少し詰まった。

「うん、吉田院長は正直な人だけど、厳しすぎて、みんな怖がってるわ」

「分かってるわ。だからこそ、今回あなたが先頭に立って、南区のためにこれだけのことをしてくれて、本当に感謝してるの。若いっていいわね。将来のことも、家庭のことも、気にせずに、自分のやりたいことができる。青木岑、私たち友達になれない?あなたみたいな子、本当に好きなの」

「細川監督、そんなこと言わないでください」

「茉鈴って呼んでいいわよ」細川玲子の目は誠意に満ちていた。

会計の時、細川玲子の強い主張に負けて、結局彼女が支払った。でも、この友情は、青木岑は確かに得られた。

御苑に戻った時には、もう10時だった。西尾聡雄はまだ寝ていなくて、リビングでノートパソコンを開いて資料を見ていた。

「だんな様、ただいま」

「こっちにおいで」西尾聡雄が手招きした。

青木岑がぼんやりと近づくと、西尾聡雄に抱きしめられた。そして彼が近づいて匂いを嗅ぎ、顔を曇らせて言った。「やっぱり私の言葉を聞き流したんだな」

青木岑は急に後ろめたくなって……

「だんな様……?」

「甘えても無駄だよ」西尾聡雄はパタンとノートパソコンを閉じ、真面目な表情で彼女を見つめた。

「私は今日本当に……裏社会では身の置き所がないものですから」

「裏社会?身の置き所がない?」西尾聡雄は眉を上げて尋ねた。

「うんうん」青木岑は頷いた。

「どういう意味で身の置き所がないの?」西尾聡雄は青木岑の顔をじっと見つめて聞いた。