「お姉さん、よく聞けるわね?」青木岑も呆れ果てた。
「私が覚えているのは、長田とかいう男が私に薬を盛って、頭がクラクラして、あなたにLINEを送って、その後のことは覚えていないわ。あ、そうそう、その前にそこで青木婉子を見かけたわ。まあ、あの格好、羽はたきみたいで笑っちゃったわ」
「お姉さん、人のことを笑っている場合じゃないでしょう。レイプされそうになったのよ、分かる?」
「されそうになったってことは、されなかったってことでしょ?へへへ、きっとあなたが間に合ったのね?」
「当たり前よ。私が行かなかったら、終わりだったわよ」
「ハハハ、あなたが来てくれると分かってたわ。西尾聡雄と一緒に行ったの?あんなクズどもが西尾聡雄を見たら驚いただろうね。一瞬で粉砕されちゃうもんね。あの場面、最高だったでしょうね。見られなかったのが残念」
青木岑は一瞬黙って、こう言った。「あのクズな彼氏のことは忘れなさい。早く別れて、関わらないほうがいいわ」
「当然でしょ。言われなくても分かってるわ。会ったら、まずボコボコにしてから別れてやるわ」
自分の彼氏のことを考えると、熊谷玲子も呆れ果てた。大事な時に裏切るなんて、本当に男じゃない。
あの長田という男にレイプされそうになって、青木岑が来てくれて本当に良かった。
青木岑は昨夜のことについて、多くを語りたくなかった。熊谷玲子に精神的な負担をかけたくなかったからだ。
過ぎたことは過ぎたこと。起こらなかったことが、一番良かったのだ。
電話を切った後、青木岑は仕事に戻った……
青木岑の昨夜の出来事は、すでに上流社会で密かに噂になっていた。多くの人がこの女豪傑の姿を一目見たがっていた。
さらにあの血なまぐさい場面も見たがっていた。
噂によると、長田輝明は第一病院のVIP病室で療養中で、家族が交代で付き添い、多くのボディーガードも雇っているという。
彼は今回、一人の女に本当に死ぬほど怖い思いをさせられた……
山田悦子はいつもゴシップ好きな看護師で、昼休みを利用して、こっそり青木岑にLINEを送った。
「先輩、ちょっと来て」
「何?」
「今日うちのVIP病室に、お坊ちゃまが入院したの。炭鉱王の息子らしいわ」
「ふーん」青木岑は冷静に返事した。
「どうやって入院することになったか知ってる?」
「知らないわ」