「あの……寒さで凍えているのかもしれません。秋になって、少し涼しくなってきましたから」青木岑は小声で答えた。
西尾聡雄は心配そうにソファーの毛布を取って彼女に掛け、キッチンに行って生姜湯を作った。
温かい生姜湯を手に持ちながら、青木岑の口元に得意げな笑みが浮かんだ。
やっぱり、西尾聡雄がどんなに賢くても、少し弱みを見せれば、すぐに慌ててしまう……
本当に具合が悪いのか、演技なのか、見抜けないなんて……
翌日、青木岑が出勤して朝のミーティングが終わった後、坂本副院長が彼女を呼び止めた。
「何でしょうか、坂本副院長?」
「青木さん、南区で最近優秀職員の選考があって、あなたを推薦したんだ。吉田院長の承認が下りれば、すぐに四十万円の賞金を支給するよ」
「結構です、坂本副院長。私はそれほど優秀だとは思っていません。ただ自分の仕事をしているだけです」青木岑は目立つことを望まず、優秀職員の賞を争うつもりもなかった。正直なところ、自分がそれほど優秀だとは思っていなかった。
それに、第一病院にいた頃とは違う。あの時は本当に貧しかった。
お金が必要で、面子を捨てて看護師長に賞金を希望したのだ。
今はお金に困っていないし、ただ仕事をきちんとこなしたいだけだ。賞金は必要としている人に渡した方がいい。そうでなければ、自分が申し訳ない気持ちになる。
「いやいや、あなたに決まったんだから。青木坊ちゃんが我々にあれだけの援助をくれたのも、あなたのおかげじゃないか」
坂本副院長が再び青木重徳の話を持ち出したことに、青木岑は不快感を覚えた。
「坂本副院長、申し訳ありませんが、私と青木重徳の関係は良くありません。彼は彼、私は私です。彼のことで私に特別な配慮をする必要はありません」
「まあまあ、わかっているよ。誰にも言わないから安心して。しっかり仕事を頑張ってね」坂本副院長は青木岑が本当に言いたかったことを理解していないようで、功を売るようなことを言って立ち去った。
青木岑は本当に困ってしまった……
昼休みの時間。
黒いロールスロイスが南区療養院の前にゆっくりと停まった。
青木源人が車から降りると、後ろには二人のボディーガードと運転手が従っていた。
おそらく体調が悪く、風邪を心配してか、ボディーガードの一人が傘を差していた。