「ママ、彼は私の好みのタイプじゃないの」
「あなた何歳なの?まだ好き嫌いなんて言ってるの?生活していく上でそんなに好きとか関係ないでしょう?時間が経てば全て家族愛になるのよ。こんな言葉を聞いたことない?結婚後の夫婦の愛情は左手と右手のようなもので、日々の生活に磨り減ってしまうものなのよ」
「そうかもしれないけど、でも私は結婚が相性だけじゃなくて、愛情があってほしいの」
娘がそう言うのを聞いて、永田美世子は不満そうな顔をしたものの、それ以上は強要しなかった。
夜、ベッドに横たわった青木岑は感慨深くSNSに投稿した。
もしいつか、あなたが結婚するなら、相性だけじゃなく、愛情があってほしい。
こんなロマンチックな投稿が、彼女の弟の幸治によって台無しにされた。
彼は下のコメント欄で「姉さん、男って学食みたいなものだよ。まずくても、遅く行けば何も残ってないからね」と書き込んだ。
熊谷玲子は原幸治のSNSも友達登録していたので、兄妹の会話を見ることができた。
すぐに幸治のところにコメントした。「なんかその言葉、私に向けて言ってるように聞こえるんだけど?」
「まさか、熊谷姉、そんなこと言えるわけないっすよ」
青木岑は笑いながら返信した。「二人とも私のコメント欄で盛り上がってるけど、通行料は払った?そんなに調子に乗って」
返信を見る前に、突然スマホにビデオ通話の着信が……
スマホの画面には「最愛の旦那様」という表示と、西尾聡雄のイケメン写真が表示されていた。
でも確か西尾聡雄の連絡先にそんな登録してなかったはずなのに、これはどういうこと?
不安な気持ちでビデオ通話に出て、音量を下げた。
幸い青木岑の部屋は母親の部屋から離れていたので、母が突然入ってきても大丈夫だった。
「ハロー、西尾様」青木岑は茶目っ気たっぷりに挨拶した。
「夕飯は食べた?」西尾聡雄の声はいつもと変わらず優しかった。
向こうはまだ会社にいるようで、深灰色のカジュアルシャツ一枚で、袖口のダイヤモンドが特に輝いていた。
こんな装飾品を他の人が身につけたら、成金みたいに見えるはずなのに。
でも西尾聡雄は貴族のような雰囲気を醸し出していた。やはり、服は重要じゃない、顔が一番大事なんだ。