「いやいや、あの時お前はまだ小さかったじゃないか」青木岑は笑った。
「あの時だって十代だったよ、何でもわかってたんだから」
原幸治は思いやりのある弟だった。甘やかされた男の子たちや、親に寄生する放蕩息子たちと比べると、本当に分別があった。アルバイトをして家計を助け、いつも姉を励ます温かい言葉をかけてくれた。
青木岑は、あの時弟を救うためにどんな決断をしても価値があったと感じていた。
幸治と別れた後、青木岑は西尾聡雄にLINEを送った。「仕事終わった?」
「まだ忙しいよ」青木岑からのLINEには、いつも即レスだった。
青木岑は車を走らせてGKまで向かった。最近失態が多かったので、西尾様の機嫌を取ろうと思ったのだ。
永田さんは青木岑を見かけるなり、すぐに気づいて「青木さん、どうぞお入りください」と言った。
青木岑は頷いて、そのまま中へ入っていった……
「社長は会議室にいらっしゃいます。呼んでまいりましょう」
永田さんは、この女が社長にとってどれほど大切な存在か理解していたので、自分の判断で会議室に呼びに行こうとした。
「ちょっと待って、行かないで。ここで待ってるから」
「あ...そうですね。では何かお飲み物は?」
「コーヒーをお願いします」
西尾聡雄は約1時間の会議を終えて社長室に戻ってきた時には、
すでに心身ともに疲れていた。デスクに座り、静かにノートパソコンのデータを見つめていた。
突然、優しい手が彼の目を覆った。
そして茶目っ気たっぷりに歌うように「こっそり目隠しして、誰だか当ててみて?」
西尾聡雄は何も言わず、突然我に返ったように青木岑を抱きしめた。
西尾聡雄は座っていて、青木岑は立っていたので、この抱擁で彼の頭は彼女の胸に丁度くっついた。
かなり艶めかしい体勢に……
「誰だかも確認せずに抱きつくなんて、随分軽いのね?」
「社員以外の女性で、僕のオフィスに入れるのは君しかいない」
「はいはい、あなたは賢すぎるわ。サプライズしようと思ったのに、つまんない」青木岑は身をよじって逃れようとした。
すると西尾聡雄は甘えるような声で「動かないで、もう少しこうしていさせて」と言った。
青木岑は瞬時に頬を赤らめた……
西尾様がこんなに抱きしめたがるのは、堂々とセクハラできるからなのかしら?