「ごほんごほん……西尾様はさすがに先見の明がありますね」
青木岑は西尾聡雄の聡明さに感心せざるを得なかった。彼女の小細工をいつも見抜いてしまうのだ。
「何の用だ、言ってみろ」
「大したことじゃないんです。最近母が実家に戻ってきてほしいって言ってるんですけど、もう私たち結婚してるから戻るのは無理ですよね。ただ数日間帰って、母と幸治と過ごしたいなと思って」
「ああ」西尾聡雄は頷いた。
「いいんですか?」青木岑は西尾聡雄がこんなに話が分かる人だとは思っていなかった。
「ああ、数日間帰っていいよ。母さんと弟に何か買っていってやれ。金が足りないなら、経理に追加で振り込ませるから」
「ぷっ……いりません、十分ですよ。私、もうたくさんお金持ってますから」
青木岑は主に自分の給料カードを使っていた。昇進してから給料もかなり上がったからだ。
普段の食事や衣服は全て西尾聡雄が手配してくれているので、特にお金を使う場所もない。
西尾聡雄が彼女にくれた五千万円以上と、毎月の百万円の給料は、一銭も使っていなかった。
西尾聡雄は妻が実家に帰るのを寂しく思ったが、青木岑の気持ちもよく理解できた。
だから心の中で寂しくても口には出さず、青木岑が幸せならそれでよかった。
二人で楽しく火鍋を食べ、家に帰ると、西尾聡雄は会社からの電話を受けて忙しくなった。
一方、青木岑はお風呂を済ませてベッドに入り、本を読んだり音楽を聴いたりしてのんびり過ごした。
翌日仕事が終わると、青木岑は新鮮な野菜や果物をたくさん買って実家に向かった。
幸治は夜に授業があるため、まだ帰っていなかった。
永田美世子は鶏一羽を煮込み、野菜も何品か炒めて、母娘で豪華な夕食を楽しんだ。
そのとき、玄関が開いて二人が入ってきた。
先に入ってきたのは隣の吉田伯母で、後ろの人は青木岑にはよく見えなかった。
「あら、ちょうど食事中?」
「ええ」永田美世子は立ち上がって吉田伯母に椅子を出し、座るよう促した。
「岑ちゃん帰ってきてたの?」吉田伯母は笑顔で、青木岑に特に親しげだった。
「吉田伯母さん」青木岑は挨拶した。
「ちょうどいいわ。うちの佐々木がこの数日休暇なんだけど、暇だって言ってたの。岑ちゃんが帰ってきてくれて、二人で話でもできるわね」