第338章:金と権力の対峙(10)

桑原勝が話し始める前に、彼は近づいてきて、一気に車のドアを開け、青木岑を複雑な眼差しで見つめながら言った。「降りろ」

「何の用?」

「用がある」桑原勝は傲慢な態度で言った。

確かに自分から相手を探しに来たのに、相変わらず優越感に満ちていた。さすが皇太子様だ。

「早く言って、仕事に行かなきゃ」

青木岑はもう躊躇わず、運転席から降りた。

彼女はコーヒー色のショートコートに、ネイビーのスキニーパンツ、黒の低めヒールを履いていて、知的な印象だった。

人に与える印象も心地よかった……

「まだ仕事なんて考えられるのか?お前って女は図太い神経してるな」桑原勝は呆れた様子だった。

「どうして図太いの?」青木岑は笑って、桑原勝の表現が面白いと感じた。

「一週間後に県高等裁判所で裁判があるんだろう?」

青木岑は聞いて目が一瞬光った。「それまで知ってるの?情報通なのね」

「業界では皆知ってる。長田輝明のような輩は、女を虐めることしかできないんだな」

桑原勝は軽蔑の表情を浮かべた……長田輝明のような成り上がり者なら、一瞬で潰せるのに。

「そう、そうなの」青木岑は淡々と答えた。

「何が『そう』だよ?どう考えてるんだ?」桑原勝はいらだちながら尋ねた。

火の粉が降りかかってるのに、なぜこの女はこんなに落ち着いているんだ?

まさに天皇不急太監急という状態だ……

「どう考えるって、訴えられたら出廷するしかないでしょう。出廷しないと罪になるし。せいぜい弁護士を雇って弁護してもらうだけよ」

青木岑は何でもないように言った……

「簡単に言うけど、そんな単純じゃないぞ。長田家は今回、市内一の口達者な小田先生を三億円で雇ったんだ。あいつは金さえもらえば何でも言う。黒を白に、白を黒に変えられる。一度有罪が確定したら、お前は刑務所行きだぞ」

「私には罪はない。なぜ刑務所に行かなきゃいけないの」青木岑は軽く笑った。

「世の中はお前が考えるほど単純じゃない。世間は暗くて道は滑りやすく、社会は複雑だ。金で是非を逆転できるんだぞ、分かるか?」桑原勝は熱心に諭した。

「分かってるわ。世の中が単純じゃないことは、ずっと知ってるから」

「じゃあどうするつもりだ?」

「来るものは来るがままに対処するわ」

桑原勝:……