第359章:彼女は既婚者だった(1)

桑原勝は、こんなに気分が悪くなることは滅多にない。幼い頃から、欲しいものは何でも手に入れられた。

桑原家は、この一人息子を溺愛し、少しの不満も許さなかった。

しかし、桑原勝は長田輝明のような不良のように横暴で、権力を振りかざすことはなかった。

ほとんどの時間を、女を口説き、金を稼ぎ、仲間と酒を飲んで過ごし、この生活が一生続くと思っていた。

青木岑が現れるまでは、その平穏は完全に崩れ去った……

青木岑は絶世の美人ではなく、スタイルも抜群ではなく、性格も優しくなかったが、それでも桑原勝の心を動かした。

青木岑は口説くのが難しくても、すぐに手に入ると思っていたが、まさかこの道がこんなに長くなるとは……

今や療養院を出て、青木岑に会うことさえ極めて困難になった。

彼は執着する性格ではなく、療養院に行って相手を探し回ることもなければ、むやみに電話をかけることもない。