第361章:彼女は既婚者だった(3)

「そうよ、辞めるわ。早く承認してよ。これからは私を見なくて済むから、あなたも気が楽になるでしょう」

「私は個人的な恨みで判断したことは一度もないわ。本当に辞めるつもり?」

「はい、辞めます」平野照子は断固として答え、その口調も強気だった。

青木岑は思い出した。以前誰かが言っていた、照子という女性は非常に功利的で、病院でずっと昇進を狙っていたと。

出世のために、坂本副院長とも関係を持ったが、結局正社員になっただけだった。

前回、細川玲子が昇進し、青木岑が看護師長になった時、彼女はとても不満そうで、至る所で青木岑に対抗していた。

その後、青木岑に何度か懲らしめられ、大人しくなった……

突然の退職願いに青木岑は驚いたが、特に何も言わなかった。

「決心がついたなら、承認するわ」そう言って、青木岑は白衣のポケットからボールペンを取り出し、自分の名前を書いた。

平野照子は無遠慮に退職願いを引っ張り取った。「じゃあ、人事部で給与の精算をしてきます」

平野照子が去った後、ある看護師さんが近づいてきて小声で言った。「看護師長、平野さんが辞める理由をご存知ですか?」

「知らないわ」

「お金持ちを捕まえたんですよ」

「えっ?」青木岑は何と言っていいか分からなかった。

「ご存知ないかもしれませんが、彼女は最近5号室の患者の看護をしている時に、その患者と関係を持つようになったんです。夜勤の時によく5号室に行って、服装を乱して出てくるのを皆見ていました」

「5号室って50歳くらいのおじさんじゃない?」青木岑は覚えていた。5号室の患者はタイの華僑系で、典型的な東南アジア人の顔立ちで、黒くて痩せていて、標準的でない日本語を話していた。

タイとマレーシアに農園を持っていて、輸出入貿易をしているという話だった。

「そうです。でもお金があれば年齢なんて関係ないんでしょう。平野さんと仲の良い看護師さんが言うには、そのタイ人が地元のマンションを一軒買ってあげて、車もアウディTTに替えてあげたそうです。愛人にするつもりみたいですね」

「でも、もし将来男に捨てられたらどうするの?退路も考えないの?」青木岑はため息をついた。

この若い子たちときたら、目先の快楽のために、何も考えていない。

自分の将来のことも考えていない……