第368章:彼女は既婚者だった(10)

「ゴホゴホゴホ……冗談じゃないでしょう。私があなたの奥さんに手を出すなんて。死にたくないですよ」

佐藤然は西尾聡雄という妻を守る狂人に本当に驚いて、むせそうになった……

青木岑へのセクハラという大罪を、彼は絶対に認めるわけにはいかなかった。

西尾聡雄は黙って一人で酒を飲んでいた。彼は知っていた。佐藤然の性格では秘密を隠し通すことはできないと。

何かあれば、聞かなくても必ず全部吐き出すはずだと。

案の定、西尾聡雄が何も聞かないのを見て、我慢できなくなった。「小原幸恵と別れたんだ」

「ああ」西尾聡雄の反応は冷淡で、予想通りといった様子だった。

「あの女は本当に私には合わないよ」

「やっぱり熊谷玲子の方が合うと思ってるんじゃないの?」西尾聡雄が突然そう言い放った。

「プッ……冗談でしょう。熊谷玲子とは何の関係もないよ。小原幸恵との別れは一日一晩かけて深く考えた末の決断だ。彼女との生活が疲れすぎるんだ」