「こんにちは」青木岑の口調はよそよそしく、まるで見知らぬ人に対するようだった。
「どうしてここに?南区で働いているんじゃないの?」
「ああ、今日は休みだから、みんなに会いに来たの」
「あっちの方は順調?」
「うん、とても」
「青木基金の会長に昇進したって聞いたよ。本当に羨ましいな」
「羨ましがることないわ。ただの社員よ。名前だけの役職だし」
「君は本当に凄いよ。いつか必ず素晴らしい医師になれると信じてる」大學時代から、寺田徹は青木岑の夢が看護師ではなく医師になることだと知っていた。
「冗談でしょ。看護師長で十分満足よ。医師なんて。そうそう、用事があるから、もう行くわ」
「待って、岑」寺田徹は明らかに青木岑を引き止めたがっていた。
「何か用件でも?寺田先生」
「この前、両親が来てね。地鶏の卵をたくさん持ってきたんだ。半分君にあげたいって。でも会う機会がなくて。だから住所を教えてくれれば、後で送るよ」
「結構です。卵は壊れやすいから、配送は危険です。吉田先生は妊娠中だし、彼女にあげてください。叔父さんと叔母さんによろしく伝えてください」
青木岑は微笑んで頷き、優雅に立ち去った……
今の寺田徹は彼女にとって、まるで見知らぬ人のようで、何の感情の揺らぎもなかった。
だから、寺田徹が以前言っていた、青木岑は彼のことを本当に愛していなかったという言葉は正しかったのだ。
もし本当に愛していたのなら、こんなにもさっぱりと向き合えるはずがない。
病院を出た時、特に予定もなかったので、青木岑は車で学園都市へ向かった。
しかし残念なことに、幸治は友達と山登りに行っていて、学校にいなかった。
帰り道で、熊谷玲子から電話がかかってきた……
おしゃべりの中で、青木岑は先ほど病院で起こったことを全て熊谷玲子に話した。
「寺田徹はあなたが上手くやってるって知ったら、きっと妬むわよ。あなたは彼から離れた方がいいわ」
「そんなことないでしょ。私たち円満に別れたし、今はネットで流行ってる言葉があるでしょう。『元カレが幸せなら、それは晴れの日』って」
「違うわよ。それなんて何世紀前の話?お姉さん、今は『元カレが幸せなら、それは困ったことね』が流行りよ」
青木岑:……
「はいはい、あなたの勝ちよ」熊谷玲子の新しい言い回しに、青木岑も呆れた。