「好き、大好き」青木岑は目を開け、西尾聡雄の胸に寄りかかりながら、遠くに連なる山々を眺めていた。
「今回の休暇は少し短いから、まずはここでリフレッシュして、年休が取れたらモルディブに連れて行くよ」
「うん」青木岑は幸せいっぱいに頷いた。
その時、内線電話が鳴り響いた……
「はい?」
「はい、分かりました」
「行こう、食事に」
その後、二人は15階に降りた。15階には高級な内装の西洋レストランがあった。
青木岑が入ると、広々とした回転レストランには二人しかいないことに驚いた。
「どうしてお客さんが少ないの?私たちだけ?」青木岑は不思議そうに尋ねた。
「ホテルの社長が貸切にしたんだろう」西尾聡雄は推測した。
案の定、二人が席に着くと、40代くらいの少し太めの中年男性が近づいてきた。
高級なスーツを着た彼は西尾聡雄の前まで来ると、軽く会釈をして「西尾社長、事前にご連絡いただければお迎えに上がれたのですが」
「急な決定だったので」
「こちらは、お連れ様でしょうか?」ホテルの社長は遠回しに尋ねた。
「いいえ、妻です」西尾聡雄は答えた。
ホテルの社長は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに深々と頭を下げ「奥様、ようこそ」
「こんにちは」青木岑は頷いて応えた。
「西尾社長、奥様、お昼のお食事は既にご用意しております。キッチンへのご要望がございましたら、何なりとおっしゃってください」
「ああ」
「では、失礼いたします。ごゆっくりお楽しみください」
ホテルの責任者はグループの大将が来ていると聞き、おろそかにはできず、すぐに挨拶に来たのだった。
そして西尾夫妻のために豪華な昼食を用意した……
赤ワイン、ステーキ、フルーツサラダ、フォアグラソース、キャビア、デザートと盛りだくさんのテーブルを見て、青木岑の気分は更に良くなった。
「美味しそう」青木岑は唇を舐めた。
西尾聡雄は愛おしそうに微笑み、アルゼンチン産の焼きエビを一尾青木岑の皿に載せた。
その時、青木岑は突然何かを思い出したように言った。「あなた、話があるの」
「うん」
「青木重徳が先日南区に行って、青木基金を設立して、私を会長にしたの」
青木岑は青木重徳のことを簡単に説明した。西尾聡雄に隠し事はしたくなかった。