「構わないで」
青木岑は顔を背けて酒を飲み続けた。先ほど彼女があのハゲに「あなたは面倒なことになるわよ」と言ったのは、桑原勝が来たことを知っていたからではない。
この倶楽部の裏にいる人物がもうすぐ動き出すことを知っていたからだ。
彼女はその人物と西尾聡雄がどういう関係なのかは分からなかったが、必ず彼女を守ってくれるはずだった。
ただ、まさかこんな重要な時に、桑原勝が出てきて邪魔をするとは思わなかった。
「ウェイター、彼女と同じものを12本持ってきて」
桑原勝が手を振ると、ウェイターは太客の注文を聞いて、すぐさま小走りでビールを持ってきた。
桑原勝は黙ったまま、開けられたビールを手に取り、一本ずつ飲み干していった……
連続で六本飲み干した……
後ろにいた関口遥と矢野川たちは驚きのあまり失禁しそうになった……
「桑原様は……チートでもしているんですか?」関口遥は呆然とした。
「超人的な演技を見せているとしか思えない」矢野川も驚愕していた。
確かに桑原勝は酒が強く、夜の街に慣れているが、こんなに激しく飲むのは見たことがなかった。
バドワイザーが小瓶とはいえ、一度に六本も連続で飲むのは命がけだろう?
「何をしているの?」青木岑は六本の空き瓶を見て、ようやく桑原勝をまともに見た。
「君のペースに追いついただけさ。これからは一緒に飲もう。そうすれば公平だろう」そう言って、七本目を手に取り、青木岑とビール瓶を軽く合わせてから、ゆっくりと飲み始めた。
正直なところ、桑原勝がこんな命知らずな飲み方をするのを見て、青木岑は初めてこの暴れん坊にも男らしい一面があると感じた。
「気分が悪いの?」
「そうね」青木岑は落ち込んだ様子で答えた。
「どうして?」
「言いたくない」
桑原勝:……
「分かった。言いたくないなら言わなくていい。ただ飲もう」桑原勝はまたビールを手に取った。
「今夜は酔いつぶれるまで飲むつもりみたいだな」関口遥は小声で言った。
「でも……飲みすぎると、あそこが……立たなくなるんじゃないの?本当にそんなに飲んで大丈夫?ナンパが目的じゃなかったの?」矢野川は心配そうに桑原勝を見た。
「げほげほ……考えすぎだよ」関口遥は矢野川の言葉に驚いた。
確かに桑原勝はあの女の子に気があるけど、今夜連れて帰るつもりは絶対にないはずだ。