「私は岩本奈義です。今、あなたの病院の屋上にいるのですが、少しお話できますか?」
「岩本さん、私はあなたとそれほど親しくないと思いますが」
「お話があります。以上です」そう言うと、青木岑が口を開く前に、岩本奈義は電話を切った。
青木岑も呆れた。岩本奈義は今をときめく女優だということは知っていた。
たまに家に帰った時に、彼女が出演している時代劇をいくつか見たことがあり、演技は上手かった。
しかし...彼女とは生活の中で関わりたくなかった。前回彼女が投げつけたバッグの一件以来。
彼女に良い印象を持てず、あの女は手ごわい相手だと感じていた。ただ、彼女と桑原勝の間には何もないので、岩本奈義のことは気にしていなかった。もし誰か西尾聡雄を奪おうとする女がいれば、きちんと対処するつもりだった。
少し考えた後、屋上での約束に行くことにした。今回行かなければ、岩本奈義はさらに執着してくるかもしれないから。
5分後、療養院の屋上。
岩本奈義のマネージャーとボディーガードは屋上の一階下の階段で待機し、岩本奈義は黒いスポーツウェアに身を包み、黒い野球帽と白いマスクを着用して、そこで待っていた。
青木岑は作業着の白衣姿だった......
「来たわね」岩本奈義は足音を聞いて振り向いた。
「岩本さんが私に何の用があるのか分かりませんが、公務なら私のオフィスで話し合うことをお勧めします。私事なら、私たちはあまり親しくないはずですから、話すことはないと思います」
「私の時間は貴重なの。遠回しな言い方はやめましょう。はっきり言うわ。あなたはいつから桑原坊ちゃんを誘惑し始めたの?」
「桑原坊ちゃん?桑原勝のことですか?」青木岑は眉をひそめた。
「とぼけないで」岩本奈義はマスクを外し、冷たい目で青木岑を見つめた。
「私と桑原勝の間には何もありません。誘惑なんてありえません。岩本さん、ドラマの撮影が多すぎて、想像力が豊かになりすぎて、幻覚でも見ているんじゃないですか?」青木岑は嘲笑った。
岩本奈義の表情が変わり、怒りの色を帯びた目で「くだらないことを言わないで。昨夜、桑原坊ちゃんの携帯であなたの写真を見たわ」
「私の写真?」青木岑は少し驚いた。