「うん、それで?誰が勝ったの?」西尾聡雄は無関心に尋ねた。
「えーと……その……私が勝ったの。お母さんをかなり怒らせちゃったみたい」
青木岑は、西尾聡雄が年配者と争うなと諭してくれると思っていた。
しかし予想に反して、彼は「よくやった、嫁さん」と言った。
「えっと……でも、あなたの実の母親でしょう?」青木岑は気まずそうに言った。
「君も僕の大切な嫁だよ」西尾聡雄は当然のように答えた。
「やっぱり男は嫁をもらうと母親を忘れるのね?」青木岑は半分冗談で聞いた。
「そんなことはないよ。事実は事実として、もし君が道理をわきまえず、母を理不尽に責めるなら、僕は君を叱るさ。でも……母がどんな人か、僕は十分わかってる。事を荒立てるのが好きで、言葉も毒舌だ。君は争いを好む性格じゃない。だから考えるまでもなく、この件は誰が悪いかわかる。母のあの性格じゃ、誰かに厳しく対処してもらう必要があった。そうしないと、僕も父さんも今後もっと大変になる……」
「そうね、そう言われると確かにその通りだわ」
西尾聡雄は是非をはっきりさせる人で、青木岑の性格をよく知っていた。だから母親と言い争いになったことを知っても、彼女を責めなかった。
彼は青木岑が分別のある人間で、理由もなく母親と争うような人ではないことを知っていたからだ。
翌朝
青木岑は夜勤だったため、昼間は暇で、西尾聡雄と朝食を済ませた後、彼は会社に来ないかと提案した。
「えー……やめておくわ。あなたは会議があるでしょう?私は何をすればいいの?」
「本棚で本を読めばいいじゃないか。僕の本棚には何万冊もの本があるんだ。好きなだけ読んでいいよ」
「わかったわ……」
結局、青木岑は説得され、西尾聡雄の車に乗ってGK本社へ向かった。
西尾聡雄は遅刻を嫌うため、いつも従業員の通勤ラッシュ時に出社していた。
社長の彼女については、ほとんどの社員が知っていたが、まだ青木岑本人を見たことがない人もいた。
青木岑は今日、黒いワイドパンツに白の七分袖フィットスーツを着ていて、エグゼクティブの雰囲気が漂っていた。
優秀な西尾聡雄と並んでも、彼女の存在感は引けを取らず、堂々としていた。
一挙手一投足が優雅そのもの……
青木岑は1階で技術部の平野次木に会うとは思わなかった。月下倶楽部で無謀にも彼女に声をかけてきた男だ。