「会いに来たわ」
「私に会いに来たの?笑わせないで。私がどれだけ惨めに暮らしているか見に来たんでしょう。あなたのおかげで、私は全然惨めじゃないわ。自由気ままに暮らしていて、子供たちが誰かに圧迫されて最後に何も残らないなんて心配する必要もない。娘はもう就職して自立しているし、息子も大學に進学したわ。三人で幸せに暮らしているの。だから、神谷様、さっさと出て行って。ここにはあなたの居場所なんてないわ」
「ねえ、この老女、母さんに向かってなんて口の利き方するの?」
永田美世子は青木婉子を一瞥した。「まさに青木源人の血を引く子ね。見た目が似てるだけじゃなく、性格まで同じ。生意気で強情。このままじゃ嫁に行けないわよ」
「誰が嫁に行けないって言ったの?この老いぼれ」
「婉子、失礼な態度は止めなさい……」神谷香織は即座に青木婉子の暴走を止めた。
「お姉さん、今回は喧嘩をしに来たんじゃないの。取引をしたいと思って」
「取引?」永田美世子は母娘を興味深そうに上から下まで観察した。
「そう、取引……」
「どんな取引?」
「青木岑を説得して青木家に戻り、私たちを助けるよう手伝ってくれれば、三環内の100平米の新築マンションを差し上げます。ここをご覧なさい。環境も悪いし、市街地からも遠い。夏は暑くて冬は寒い。人が住める場所じゃないでしょう。それに……あなたの息子さんも18、9歳でしょう?いずれ結婚することになるはずです。この古い家を将来の嫁に与えるわけにはいかないでしょう?きっと相手も気に入らないはず。だからお姉さん、賢明な判断をすべきよ」
「ふふ……随分と気前がいいわね。三環内の100平米の新築マンション……」永田美世子は軽く笑った。
「そうよ。今の不動産価格で1平米20万円として、100平米で四千万円になるわ。どう?決して損な話じゃないでしょう。それに……青木岑が青木家に入れば、もっと良いことがあるはずよ。あなたの人生最大の夢は、青木岑を戻らせて、源人に娘として認めさせることじゃなかったの?」