第6章:巅峰 賭神の夜(6)

青木岑は小走りで西尾聡雄の車の前まで行き、彼が車から降りるのを待って、すぐに抱きついた。

西尾聡雄の胸に飛び込んで……

「あなたの車と私の車が前後していたのに、どうして見えなかったの?透明人間になれるの?」と青木岑は笑いながら尋ねた。

西尾聡雄の前でしか、青木岑のこんな子供っぽい一面は見られなかった。

西尾聡雄は愛おしそうに彼女の頬をつまんで、「僕は別の高架から降りてきたんだ。午後にD市に行って、そっちから帰ってきたから」と言った。

「なるほど……」

青木岑は仕事を終えた時、疲れすぎて着替える気力もなく、病院の白衣のまま帰ってきていた。

体にホルマリンの匂いがついていて、彼女が抱きついたせいで、西尾聡雄のワイシャツにもその匂いが移ってしまった。

「お前さん……随分と仕事熱心だな、ホルマリンの匂いをつけたまま帰ってくるなんて」