「そんなにないよ」青木岑は謙虚に微笑んだ。
「そんなにないってどのくらい?」
「たった二十数万だよ。あなたの五分の一にも満たないわ」
「そんなに多くなくていい。昇級できれば十分だよ」
「昇級しても面白くないよ。どうせ最後は優勝できないし」
「誰が言った?」西尾聡雄は笑いながら尋ねた。
「言うまでもないでしょう。あなたがいるのに、私なんかが優勝できるわけないじゃない」青木岑は口を尖らせ、まるで不満げな新妻のような表情を浮かべた。
「優勝を譲ってあげてもいいよ」
「いらない。あなたに優勝してほしい」
「なぜ?」
「だって、あなたが優勝する方が私が優勝するより嬉しいもの。それに、私なんて誰も知らないし、私が優勝しても意味ないでしょう。でもあなたはGKを代表しているから、今回優勝すれば、会社の今後の発展にも、あなた個人の評価にもすごくプラスになるはずだから」
「君のその頭の回転の速さには驚かされるよ。他の人はどうやって生きていけばいいんだ?」
「私が賢くなかったら、あなたを夫に選べたと思う?」青木岑は反論した。
そして二人は顔を見合わせて笑い合った……
少し離れたところで、同じく百万以上を勝ち取った桑原勝は、この光景を黙って見つめていた。
「はぁ……来る必要なかったのに。ギャンブルにも興味ないし、賞金なんて目じゃないのに、なんでこんな苦労するんだよ。船酔いまでして……」関口遥は文句を言った。
そう、間違いじゃない。桑原勝は船酔いしていた……
それでも彼はクルーズ船に乗った。全ては誰かに会いたいという一心からだった。
「うるさい……」桑原勝は冷たく一言言い放つと、顔色の悪いまま白雲ホールを後にした。
二時間の戦いが終わり、佐藤然と熊谷玲子は賭け金を全て失い、二人とも脱落した。
少額の勝ち金を得た人たちも脱落し、残った五十人が明日の第二ラウンドに進むことになった。
「ねぇ、明日は何をするか知ってる?」青木岑は少し興奮気味に尋ねた。
「大富豪じゃないかな」
青木岑:……
「大富豪?本当?間違いないの?」青木岑はちょっと馬鹿げていると感じた。こんな大きな大会で大富豪をするなんて、レベルが低すぎないか?
「さあね?予想だよ」西尾聡雄は笑みを浮かべた。