第39章:前世の借り(その9)

「とんでもない。彼女がどんな人か知っているのか?彼女に手を出すなんて」

「青木家の私生児じゃないか?噂によると、青木家とも仲が悪いらしいよ。青木重徳がどうして彼女を基金会の会長にしたのか、頭がおかしくなったんじゃないかな」

「彼女は青木家の私生児というだけじゃない。吉田信興が重視している人物でもある。吉田のような老狐が理由もなく誰かを育てることはないはずだ。きっと彼女には知られていない背景があるんだ」

「どんな背景?吉田の愛人か?」阿部部長は軽蔑的に言った。

「それは気にするな。とにかく軽はずみな行動は控えろ……」

「義兄さんは慎重すぎますよ。二十代の女に何ができるっていうんです?大衆車からアウディR8に乗り換えたのを見れば、金持ちにたかっているのは明らかじゃないですか。南区の看護師で金持ちと付き合ったり、囲われたりしていない人なんていませんよ。あの給料じゃベンツやBMWなんて買えるわけないでしょう。青木岑はまともぶっていますが、結局は拝金女です。スポーツカーだってどこから来たと思います?先日、桑原坊ちゃんがここで療養していた時、二人の間に噂があったそうですよ」

「桑原勝?」坂本副院長は少し驚いた様子で。

「そうです。でも今は彼女に飽きたんでしょう。だって彼女の容姿は特別美人というわけでもないし、新鮮味を求めただけでしょう。男というのは手に入らない女を征服したがるものですから。青木岑のあの高慢な態度に桑原坊ちゃんが興味を持ったのかもしれません。でもその後の進展は聞いていないので、一時の関係だったんでしょう……私に言わせれば、あんな女は罠にはめて、ベッドに連れ込めば、その後は言うことを聞くようになりますよ」

「お前はベッドのことばかり。最近は少し自重しろよ。弱みを握られないように。看護師さんたちと浮気しすぎるな……いつか女に殺されるぞ」

「はいはい、分かってますって、義兄さん」阿部部長はうんざりした様子で答えた。

二人は青木家の金に手を出そうとしたが、何も得られなかった。青木岑が極めて融通の利かない女だったからだ。

阿部部長は以前、青木岑に暗示を送り、協力してくれれば三割のリベートを約束したが、青木岑はきっぱりと断った。

青木重徳も善人というわけではないが、基金の管理を任された以上、きちんと管理するつもりだった。