第40章:前世の借り(その10)

「あなたの精神状態は普通の人よりもいいみたいね。足が痛いようには全然見えないわ」青木岑は資料を抱えながら、矢野川のところへ歩いていった。

「精神状態と足の痛みは関係ないよ。僕は楽観主義者だから、足が折れても、食べるものは食べるし、飲むものは飲むさ」

青木岑はこの口の達者な男の言葉を無視して、彼のカルテを見つめた。

バスケットボールで足を捻挫しただけ。実際にはとても些細なことで、中医で推拿を受けて、しばらく休養すれば治るはずだった。

わざわざ南区まで来る必要なんてあったのだろうか。まるでお金を無駄遣いしているようなものだ。

青木岑は資料を閉じ、黒縁の眼鏡越しに矢野川を見つめた。「カルテを確認しましたが、南区での療養は全く必要ありません。自宅で休養すれば治るはずです。本当にここでベッドを占有するつもりですか?」

「なんてことを言うんだ。お金があるから好きにしているだけさ。ベッドを占有して何が悪いの?足の怪我どころか、ちょっとした風邪でも今後は南区で療養するつもりだよ。お金があるから好き勝手できるんだ」

矢野川は以前から関口遥から聞いていた。青木岑はとても変わった女だと。

だからこの機会に彼女と一戦交えて、彼女にどんな力があって桑原勝を魅了しているのか確かめてみたかった。

彼の言葉を聞いても、青木岑は怒る様子もなく、むしろ我に返ったように指示を出した。「1号室の患者さんの採血の準備をしてください。足に様々な炎症性の病変が起きている可能性があるので、慎重に6本採血して、詳しい検査をしましょう」

「はい、看護師長」

「ちょっと待って、なんで採血なんかするの?しかもそんなに多く?」矢野川は即座に表情を変え、手にしていたリンゴも食べる気が失せた。

「これは南区の規定です。患者さんのために、総合的な検査をさせていただく必要があります。これはあなたの健康に責任を持つためです……」

「青木岑、あなた私怨を晴らしているでしょう。苦情を申し立てますよ」

「どうぞご自由に」

その後、青木岑は別の看護師さんに言った。「1号室の患者さんは情緒不安定です。躁病の前兆が疑われるので、精神科の醫師を呼んで精神鑑定をしてもらってください。問題がないと確認できたら整形外科に残りますが、精神科の問題であれば……科を移動していただきます」