「あぁ......私の幻覚かしら?うちの西尾様がどうしてここにいらっしゃるの?」青木岑は笑いながら言った。
「君が恋しかったからさ」
西尾聡雄の口元には、ほんのりとした優しさが漂っていた......
もしこの瞬間、彼と目が合えば、きっとその優しい表情に溶けてしまうことだろう。
青木岑は何も言わず、すぐに飛びついた......
両手で西尾聡雄の首に抱きついて......
ここは個室のオフィスで良かった。普段は冷静そのものの看護師長の、
こんな甘えん坊な一面を誰にも見られることはない。
「今、仕事終わったの?」青木岑は顔を上げて笑顔で尋ねた。
「ああ」
「まだ食事してないでしょう?」
「してない」
「あぁ......どうしよう、私もう食べちゃったの。来るって分かってたら待ってたのに」
「大丈夫、お腹も空いてないし」
「ダメよ、ちょっと待っててね。何か食べるものを探してくるから」
青木岑は西尾聡雄の手を引いて椅子に座らせ、オフィスデスクの下の小さな棚を開けた。
引き出しを探りながら、たくさんのお菓子を取り出した......
仕事が忙しい時に時間を節約するために、いつも適当に食べていたものだ。
サーターアンダギー、なつめケーキ、マルコポーロのハム、フルーツ入りゼリー、それにモンニュウの酸っぱい乳飲料があった。
「早く少し食べて。お腹が空きすぎると胃に良くないから。とりあえずこれで我慢して。この忙しい時期が終わったら、近くのレストランに一緒に行きましょう」
「いいよ、これで十分だから」
西尾聡雄は普段お菓子を食べない人だが、青木岑の気持ちは分かっていた。
まるで幼稚園児が友達にキャンディーをあげるように、おいしいものを全部分けてあげたがっているのだ。
西尾聡雄はケーキを一口食べ、それから酸っぱい乳飲料を一口飲んだ......
青木岑はすぐにデスクの上のティッシュを取って、彼に渡した......
「最近忙しいの?」西尾聡雄は心配そうに尋ねた。
「うん、整形外科はもともと忙しいのに、今日は内田部長の神経内科の患者も引き受けたから......これからもっと忙しくなるかも」青木岑は少し申し訳なさそうに言った。
一旦忙しくなると、夜勤が特に多くなり、西尾聡雄と過ごす時間が少なくなってしまう。