「母さん……一時の怒りだと思っていたのに。私が隠していたことに怒っているだけだと。青木岑がどうあれ、もう私たちの家族なのに、外の人と手を組んで家の恥を晒すなんて……私たちの名誉を気にしないのはまだしも、会社の名誉まで考えないなんて、本当に酷いやり方だ」
「会社の名誉なんて考えていないわけじゃないわ。会社のことを考えるなら、青木岑なんか娶るべきじゃなかったのよ。説教しないで。私は会社の経営なんて分からないけど、道理くらいは分かっているわ」西尾奥さんは息子が青木岑をかばい続けることに我慢できなかった。
だから腹立たしく、息子が一言言うたびに反論した……
「分かりました。そこまで言うなら、もう何も言うことはありません……母さんが考えを改めるまで、私たちはこの家には戻ってきません」そう言って、西尾聡雄は背を向けて歩き出した。
「ちょっと待ちなさい」西尾奥さんがどれだけ呼び止めても、西尾聡雄は足を止めなかった。
「坊ちゃま……甘いスープを作りました」メイドは階段の入り口で弱々しく言った。
「いらない」
その言葉を投げつけるように言い残し、西尾聡雄は冷たく家を後にした……
許してもらえるまでは戻ってこないという意思表示だった。
「何か言いなさいよ。口が利けないの?…あなたが甘やかしたからこんな息子になったのよ」西尾奥さんは夫に八つ当たりした。
西尾裕二は老眼鏡をかけて歴史の本を読んでおり、かなり落ち着いているようだった。
「息子を甘やかしたのは私一人じゃないだろう。それに、彼のやり方に何も問題はないと思う。会社の経営も上手くいっているし、今回のT市の事故対応も素晴らしかった。私は満足している」
「それがなんの役に立つの?仕事の成功が全てじゃないでしょう……あなたの大切な息子がどんな女を選んだか見てみなさいよ。ねえ?よく目を開けて見てみなさい?」西尾奥さんは怒鳴った。
西尾裕二は老眼鏡を外して妻を見つめながら尋ねた。「青木岑のどこが悪いんだ?出身が良くないことと、いい大學に行っていないこと以外に、何が気に入らないんだ?」
「全部よ。見た目もたいしたことないし、性格も最悪。あの子が私にどんな態度をとるか、あなたは知らないでしょう」