第45章 私は師を取らない

「お母さん、妹はダンスがとても上手で、先生も毎日才能があると褒めているわ。きっと優勝するでしょうね」曽我若菜は柔らかな声で、羨ましそうな口調で付け加えた。

「若菜、もう彼女の話はするな！」川村染は顔を引き締めた。

曽我時助は意地悪な水野日幸のことを思い出し、優しい妹を見て、殺意を覚えるほど腹が立った。「あんな意地悪な人が優勝できるはずがない。天が目を閉じでもしない限りは」

次兄が審査員だから、絶対に水野日幸を勝たせるわけにはいかない。

彼はすでにテレビ局のスタッフに指示を出し、準備段階で水野日幸というガキを潰すように、メイクをさせず、ダンス衣装にも問題が起きるようにと伝えていた。

「分かりました」曽我若菜は川村染の胸に顔を埋め、誰にも見えない角度で、得意げに口元を歪めた。

私こそが曽我家の娘、曽我家唯一の娘なのだ。

水野日幸なんて何者でもない。両親や兄の目には、犬以下の存在なのだから！

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水野日幸は十数分で、ドレス全体を直し終えた。

「やべぇ、マジでめっちゃ綺麗じゃん！」石田文乃は興奮のあまり思わず下品な言葉を吐き、語彙力の無さから、どう表現していいか分からなかった。

「やべぇ、綺麗！」

「やべぇ、マジ綺麗！」

女友達も一人一言ずつ続けた。

水野日幸は彼女たちを呆れた目で見て、教養のなさは恐ろしいと、諭すように言った。「ちゃんと勉強しなさいよ！」

石田文乃は彼女の周りを一周回って、興奮して手を叩いた。「お仙女様、チューさせて！」

水野日幸は彼女の口を掴んで、離れるように言った。

メイクルームにいる全ての出場ダンサーの視線が水野日幸に集中し、目には驚きと賞賛の色が満ちていた。

彼女の一言で最初に抱いた偏見も、その後の冷静沈着な素晴らしい対応によって完全に打ち消された。

この少女のことは皆知っていた。若くして多くの大賞を受賞し、日本の若手ダンサーの中でも傑出した存在だった。

彼らは先輩として、日本に才能ある若者が出てきたことを喜ばしく思い、日本からもっと多くの優秀な人材が出ることを願っていた。

この少女は傲慢でも焦ることもなく、どんな大きな緊急事態に直面しても泰然自若としていて、何事も彼女には難しくないように見えた。確かに才能のある人物だった。