辻緒羽は突然向きを変え、水野日幸の方へ歩み寄り、優雅に紳士的に軽く腰を曲げて「おめでとう」と言った。
曽我若菜の手は宙に浮いたまま固まり、辻緒羽が水野日幸に花を渡すのを見て、胸が爆発しそうになった!
あの賤人!
水野日幸のあの賤人!
あの女が辻緒羽を誘惑している!
辻緒羽が好きなのは私なのに、私が彼を拒否したからって、水野日幸なんかに渡すはずがない!
川村染も辻緒羽が水野日幸に花を贈るとは思わなかった。娘の気まずそうな様子を見て、客席の曽我時助の方を見た。
曽我時助も花を持っておらず、舞台上の光景を毒々しい目つきで見つめ、辻緒羽と水野日幸を殺してやりたいとばかりの表情だった。
その時。
客席から突然もう一人が歩み寄ってきた。すべてのスポットライトが一斉に彼に当てられた。
男性は白いスーツに身を包み、きちんとした装いで、優雅な立ち振る舞い。高い鼻梁の上にかけた金縁の眼鏡が、さらに彼の知的な雰囲気を引き立てていた。
眼鏡の下の笑うような桃花眼は、波のように輝き、常に情感を含んでいるかのよう。一目見られただけで、骨まで溶けてしまいそうだった。
彼は艶やかな白いバラの花束を手に持ち、その純粋で塵一つ付かない色は、彼の絶世の容姿と相まって、さらに魅力的な存在となっていた。
誰もが男性の美しさに魅了され、瞬きもせずに彼を見つめていた。まさに風雅な世の佳公子といった様子だった。
川村染の目に明らかな輝きが宿り、安堵のため息をつくと、こっそりと彼に目配せをして、曽我若菜に花を渡すよう促した。
曽我若菜も安堵の息をついた。辻緒羽の花がなくても構わない、浅井長佑からの花は、百や千の辻緒羽の価値があった。
浅井長佑はママと仲が良く、去年は一緒に映画を撮影し、家にも食事に来たことがある。きっとママに花を贈りに来たのだろう。
川村染はようやく安心した。長佑の花があれば、娘は必ずトレンド入りするはず。ちょうど話題性を高める良い機会になる。
長佑は医薬の名門浅井家の一人息子で、二十歳という華やかな年齢。若菜が幼い頃から黒田家と婚約がなければ、彼女が望む婿はきっと長佑だったろう。
この子は容姿も雰囲気も良く、芸能界に入ってわずか二年で、多くのファンを獲得し、すでにトップスターとなっていた。