第161章 愛おしさと切なさ

水野日幸も彼を困らせることはなかった。「私が直接返しに行きます」

ハートマークのジェスチャーは、もう気軽にできなくなった。そうでもしないと、今度は金の山を持ってこられかねない。お金持ちの社長は気まぐれだから。

水野日幸は、兄にプレゼントを返しつつ、彼を喜ばせる良い方法を思いついた。

葛生はバックミラー越しに、後部座席の男を見た。

男は静かに座っていた。暖房の効いた車内で、赤いマフラーを巻いたまま、眉を少し寄せ、優しい眼差しでマフラーを見つめ、口元には嬉しそうな笑みを浮かべていた。

すごい、水野お嬢様はすごすぎる。彼は感心するばかりだった。手編みのマフラー一つで、社長を馬鹿みたいに笑顔にしてしまうなんて。

返却されたプレゼントなんて、あの温もり溢れるマフラーに比べれば取るに足らない。社長が満足して喜んでくれれば、他のことは無視してもいい。