「バスが来るまで待ってるよ」辻緒羽は飲み物を一口飲んで、バス停の柱に無造作にもたれかかりながら、彼女の側で見守っていた。
「そうそう」石田文乃はミルクティーのストローを噛みながら言った。「日幸、私が成人したら最初にやりたいことって知ってる?」
水野日幸:?
石田文乃はにこにこしながら「運転免許を取ることだよ。免許を取れば、毎日日幸を送り迎えできるでしょ。素敵じゃない?」
隣にいた辻緒羽は、何かを思い出したのか、突然体が硬直し、目の奥に暗い色が浮かんだ。飲み物を持つ手が無意識に強く握りしめられ、飲み物が溢れて手に流れても気づかないほどだった。
水野日幸は彼の様子の変化に気づき、少し興味が湧いてきた。理屈から言えば、緒羽様のような不良のボスは、まさに若気の至りの時期で、スポーツカーやレースは当たり前のはずなのに。
でも彼女は一度も辻緒羽が車を運転しているところを見たことがなかった。スポーツカーもバイクも。むしろ自転車に乗っているところをよく見かけた。
石田文乃も気づいたようで、咳払いをして、ティッシュを投げ渡した。「緒羽様、飲まないなら無駄にしないでよ!」
辻緒羽はティッシュを受け取り、またいつもの不良っぽい無造作な様子に戻って、手を拭いた。「お前が日幸と一緒にいてくれ。俺、用事があるから先に行く」
石田文乃は彼の背中を見送りながら、どうも心配で、水野日幸を見た。「日幸、家に着いたら電話してね」
水野日幸は二人が前後して去っていく様子を見ながら、考え込んでいた。秘密があるな!
「日幸」誰かが彼女を呼んだ。
水野日幸は声のする方を見ると、近くの車の中から顔を半分出して手を振っている人がいた。なんと工藤沙織だった。
「早く来て」工藤沙織がもう一度呼びかけた。
水野日幸は急いで走っていった。
商店街は人でいっぱいで、誰が最初に気づいたのかわからないが、興奮して工藤沙織の名前を叫ぶ声が上がり、みんなが振り向いた。
スマートフォンを取り出して、写真を撮る人、動画を撮る人。
水野日幸は車に乗り込んだ。
ちょうど信号が青に変わり、車の流れが動き出し、追いかけようとしたファンたちは、アイドルの車が目の前から消えていくのを見送るしかなかった。
「どうして一人なの?」工藤沙織は不思議そうに尋ねた。