第205章 宋小色って誰

水野日幸は彼女を見つめて尋ねた。「なぜトイレに行ったの?」

安美は眉をわずかに寄せ、唇を動かしかけたが、何を言えばいいのか分からないようだった。

「説明しなくていい」水野日幸は分かった。彼女のためではなく、黒田夜寒のためだったのだ。

救おうとしたのも彼女ではなく、黒田夜寒だった。少し寂しい気持ちはあったが、彼女への罪悪感は随分と減った。

「ゆっくり休んで」水野日幸は彼女に何を言えばいいのか分からなかった。彼女の過去や、黒田夜寒との関係について、正直あまり関心がなかった。

安美は彼女が立ち去ろうとするのを見て呼び止め、見つめながら言った。「ごめんなさい」

水野日幸は不思議そうに振り返って彼女を見た。「ゆっくり治療に専念して。あなたは素晴らしい人よ。私に謝ることなんて何もないわ」

会社の社員として、彼女は真面目に一生懸命働いている。それで十分だった。

浅井長唄は彼女を見送りながら、安美の近況を知りたくて少し話をした。「この間、安美のことをよく面倒見てくれてありがとう」

水野日幸は礼儀正しく微笑んだ。「どういたしまして。私が彼女を誘ったんですから。一人で外国にいるのは大変でしょう。当然のことです」

ただ、安美が浅井家の人間だとは全く予想していなかっただけだ。

「あの曽我若菜、本当に手を出そうとしたのはあなたでしょう!」浅井長唄はすべてを見透かしていた。「あの女は油断ならないわ。一度あることは二度もある。気をつけて」

君子は付き合いやすいが小人は用心が必要。曽我若菜というあの黒い蓮の花は、腹の中に悪意を溜め込んでいるのだから!

「分かりました。お嬢様のご忠告ありがとうございます。これで失礼します」水野日幸は立ち上がった。

曽我若菜が彼女を害そうとしても、その力があるかどうかだ。

この件について、よく考えてみると面白い。黒田夜寒という人物は、そう単純ではないようだ。トイレに閉じ込められる前後で、まるで別人のようだった。

彼女には疑う理由があった。彼はすでに曽我若菜の本性に気付いていたのだろう。瓶の中の硫酸は、きっと彼が取り替えたに違いない。曽我若菜の性格を知っていながら、躊躇なく彼女を守る。なんて真摯な愛情、天地がお証人よ!

水野日幸が浅井家の老当主の誕生祝いに現れたことは、石田文乃たちにも伝わっていた。